コラム

スペインを読む『フラメンコ狂日記』ほか

  • 2017/11/06
月並みな表現になるが、まさに雨後のたけのこのような勢いで、ここ一、二年の間に数多くのスペイン本が出版された(事務局注:初出1992年5月3日)。単行本、観光案内書、ムック、さらに雑誌の特集のたぐいまで入れると、ゆうに百冊を超える。その中から、最近興味深く読んだものを選んで、何冊か紹介してみたい。



まずスペイン全体を取り上げた本から。

手ごろな入門書として、イベロアメリカ文化史の専門家、増田義郎が監修した『スペイン』(新潮社)と、浜田滋郎らスペイン通の複数執筆者による『現代のスペイン』(角川書店)の二冊があげられる。どちらも分担執筆のため、少々まとまりに欠けるきらいはあるが、スペイン全般にわたる情報が、まんべんなく盛り込まれている。ともに細かい索引つきなので、事典的な使い方もできる。

スペイン  /
スペイン
  • 監修:増田義郎
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(363ページ)
  • 発売日:1992-02-00
  • ISBN-10:4106018314
  • ISBN-13:978-4106018312

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現代のスペイン―眠りを覚ましたドン・キホーテの国 /
現代のスペイン―眠りを覚ましたドン・キホーテの国
  • 編集:現代のスペイン編集委員会
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:単行本(524ページ)
  • 発売日:1992-03-00
  • ISBN-10:4048340123
  • ISBN-13:978-4048340120
内容紹介:
1492年、スペインは世界を制覇した!黄金の世紀の輝き、衰亡の時間の嘆き、スペインは激変する!1992年、バルセロナ・オリンピック、セビリア万博、EC統合…。再びスペインは歴史の表舞台に浮上する!古くて新しい国スペインとは何か?

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事典といえば、中丸明の『スペインを読む事典』(宝島社)がおもしろい。これはスペインびいき、というよりスペインぐるいの著者による、《スペインなんでも事典》である。ここには著者の、多年にわたるスペイン研究の成果がぎっしりと詰まっており、その分量と密度に圧倒される。

スペインを読む事典 / 中丸 明
スペインを読む事典
  • 著者:中丸 明
  • 出版社:JICC出版局
  • 装丁:単行本(386ページ)
  • 発売日:1991-12-00
  • ISBN-10:4796602542
  • ISBN-13:978-4796602549
内容紹介:
本書はいってみれば、1968年以来スペインを歩いてきて、旅先で目にし、耳にしたこと、テレビや映画で見たこと、新聞、雑誌、書物で読んだこと、友人たちに聞いたこと、自ら体験したことなどを、AからZまでの項目に分けて記したものである。

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野々山真輝帆の『スペイン辛口案内』(晶文社)は、女性の立場から書かれたルポルタージュで、類書にないユニークな視点をもっている。ことに女性問題、高齢者問題に対する切り込みは、現代スペインを考えるうえで貴重な情報を含む。

スペイン辛口案内 / 野々山 真輝帆
スペイン辛口案内
  • 著者:野々山 真輝帆
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(294ページ)
  • 発売日:1992-01-00
  • ISBN-10:4794960360
  • ISBN-13:978-4794960368
内容紹介:
カタルニアやバスクの民族自決をもとめる声。貴族の土地所有に挑戦する人々。失業者や老人福祉の新しい試み。麻薬問題。観光地の悩み。マチズモとたたかう女性たち…。街の浮浪者から政策担当者まで、幅ひろい人々の生の声をききとり、今日のスペイン社会の息吹をいきいきと伝える最新報告。

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元スペイン駐在の銀行マン、中西省三の『スペインの素顔』(山手書房新社)は、生活体験に根差したスペイン観察が興味深い。また高士宗明、ヘスス・ラカラ共著の『とっておきのスペイン』には、よほどのスペイン通でも知らないような、小さな町がたくさん出てくる。
スペインの素顔 / 中西 省三
スペインの素顔
  • 著者:中西 省三
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(245ページ)
  • 発売日:1992-01-00
  • ISBN-10:4309007368
  • ISBN-13:978-4309007366

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とっておきのスペイン―小さな町の魅力を求めて / 高士 宗明,ヘスス・ラカラ
とっておきのスペイン―小さな町の魅力を求めて
  • 著者:高士 宗明,ヘスス・ラカラ
  • 出版社:山手書房新社
  • 装丁:単行本(272ページ)
  • 発売日:1991-10-00
  • ISBN-10:4841300325
  • ISBN-13:978-4841300321
内容紹介:
初めて行ってとりこになったスペイン。二度目、三度目を味わう人のための、とっておきの魅力の数々。この本で旅の前のときめきを、旅の後の余韻を…。

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つぎに、オリンピックを目前に控えた、バルセロナに関する本。

森枝雄司の『ガウディになれなかった男』(徳間書店)は、ガウディの陰に隠れたカタルーニャ・モデルニスモの建築家、リュイス・ドメネクに光を当てた、刺激的な本である。

ガウディになれなかった男―歿後、不遇の天才に屈したバルセロナ建築界のドン / 森枝 雄司
ガウディになれなかった男―歿後、不遇の天才に屈したバルセロナ建築界のドン
  • 著者:森枝 雄司
  • 出版社:徳間書店
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:1990-08-00
  • ISBN-10:4195543290
  • ISBN-13:978-4195543290
内容紹介:
19世紀末から20世紀初頭-、スペイン・カタルーニャ地方バルセロナで一際光彩を放った芸術運動モデルニスモ。その渦中で静かに火花を散らした2人の建築家、秀才ドメネクと天才ガウディ。映画『アマデウス』のサリエリとモーツァルトを彷彿させる。

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また岡村多佳夫の『バルセロナ』(講談社現代新書)は、この町を巡る多彩な芸術、文化活動を紹介した好著で、これら二冊を読めば歴史的、政治的な特質も含めて、バルセロナという町がよく理解できる。
バルセロナをより多面的、総合的にとらえた本としては、神吉敬三の『バルセローナ』(文藝春秋)がある。著者はスペイン美術史、文化史の専門家であるが、現代史の側面もきちんとおさえており、バルセロナを紹介する本としては、もっともバランスの取れたものの一つといえよう。

バルセロナ―自由の風が吹く街  / 岡村 多佳夫
バルセロナ―自由の風が吹く街
  • 著者:岡村 多佳夫
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(220ページ)
  • 発売日:1991-09-00
  • ISBN-10:4061490672
  • ISBN-13:978-4061490673
内容紹介:
1888年万国博から1992年オリンピックにいたる、"カタルーニヤ・ルネサンス"の道のり。ミロやガウディの芸術、市民戦線の志士たちを生んだ、魅惑の地中海都市を訪ねる。

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バルセローナ  / 神吉 敬三
バルセローナ
  • 著者:神吉 敬三
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(356ページ)
  • 発売日:1992-03-00
  • ISBN-10:4165095508
  • ISBN-13:978-4165095507
内容紹介:
世界史と共に生きた街、古くて新しい芸術の都の魅力。

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最新のバルセロナ情報を知りたい向きには、伊藤千尋の『バルセロナ賛歌』(朝日新聞社)をおすすめしたい。著者は、昨年開設された朝日新聞バルセロナ支局の支局長で、本紙面にもしばしば署名原稿を寄せている。ジャーナリストの目から見たバルセロナには、一味違った新鮮な魅力があり、オリンピックを控えたこの町の鼓動が、生なましく伝わってくる。

バルセロナ賛歌 / 伊藤 千尋
バルセロナ賛歌
  • 著者:伊藤 千尋
  • 出版社:朝日新聞
  • 装丁:単行本(287ページ)
  • 発売日:1992-03-00
  • ISBN-10:4022564547
  • ISBN-13:978-4022564542
内容紹介:
地中海の歴史と伝統を受け継ぐ港町バルセロナ。オリンピック開催都市の誇る文化遺産と、EC加盟で経済躍進したモザイク国家スペインの新しいプロフィルを紹介する。

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バルセロナ在住の建築家、丹下敏明の『わが街バルセローナ』(TOTO出版)は、建築と美術を中心にした本ではあるが、グルメ情報やショッピング、ナイトライフ情報まで盛り込まれており、ガイドブックとしても役に立つ。

こだわりガイド わが街バルセローナ / 丹下 敏明
こだわりガイド わが街バルセローナ
  • 著者:丹下 敏明
  • 出版社:TOTO出版
  • 装丁:単行本(260ページ)
  • 発売日:1991-11-00
  • ISBN-10:4887060343
  • ISBN-13:978-4887060340
内容紹介:
学校を出たばかりの青年が、本当のガウディを識るためにバルセローナへやってきた。街を歩きまわり、ちょっと粋なバルで飲み、スペイン料理に舌鼓を打ち、人々とともに泣き、笑い、話し、そし… もっと読む
学校を出たばかりの青年が、本当のガウディを識るためにバルセローナへやってきた。街を歩きまわり、ちょっと粋なバルで飲み、スペイン料理に舌鼓を打ち、人々とともに泣き、笑い、話し、そしてついに住みついてしまった。以来20年、バルセローナの魅力の虜になった建築家が、貴重な体験の集積の中からとっておきのデータを公開する。豊富な経験と知識、鋭い感性が編んだ、ひと味もふた味も違ったバルセローナ・ガイドの決定版。

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かわって内戦、現代史を扱ったものを、二冊紹介する。

バーネット・ボロテンの『スペイン革命-全歴史』(晶文社)は、スペイン内戦の研究者にとってバイブルともいうべき、古典的な名著である。翻訳が出るのが遅すぎたほどで、昨今の東欧、ソ連の激変はこの本によって予言されていた、といってもよい。ともかくこの翻訳によって、わが国におけるスペイン内戦研究が、飛躍的に進むことは間違いない。若松隆の『スペイン現代史』(岩波新書)は、内戦前後からフランコ体制下、そしてフランコ以後のスペインの状況を手際よく描いた、気鋭の学者による概説書である。岩波書店が初めて出版した、スペイン現代史の本という点にも、注目したい。

スペイン革命 全歴史 / バーネット・ボロテン
スペイン革命 全歴史
  • 著者:バーネット・ボロテン
  • 翻訳:渡利 三郎
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(685ページ)
  • 発売日:1991-11-00
  • ISBN-10:4794960271
  • ISBN-13:978-4794960276
内容紹介:
1936年の動乱前夜から39年の内戦終結までをダイナミックに描きだす。膨大な資料を駆使してスペイン内戦の真実を明かした第一級の歴史書。

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スペイン現代史  / 若松 隆
スペイン現代史
  • 著者:若松 隆
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(244ページ)
  • 発売日:1992-03-19
  • ISBN-10:400430217X
  • ISBN-13:978-4004302179
内容紹介:
スペインほどドラマチックな変動をとげた国もめずらしい。1936-39年の内戦とフランコ独裁体制。75年にフランコの死によって開始される、君主制のもとでの民主化の歩み。82年以来政権を担当する社会労働党。そして92年のバルセロナ・オリンピック、EC統合。この60年におよぶ現代史を、気鋭の政治史家が生きいきと描き出す。

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最後に、ユニークな随筆を一つ。マドリード在住の画家、堀越千秋の『フラメンコ狂日記』(主婦の友社)は、著者のフラメンコ生活(!)を描いた破天荒な本である。リズム感に満ちたシニカルな文章は、フラメンコを知らない人も、十分楽しめるはずだ。

アンダルシアは眠らない―フラメンコ狂日記  / 堀越 千秋
アンダルシアは眠らない―フラメンコ狂日記
  • 著者:堀越 千秋
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(316ページ)
  • 発売日:1999-01-20
  • ISBN-10:4087470059
  • ISBN-13:978-4087470055
内容紹介:
「フラメンコ」とはある種の生き方を意味する言葉なのだ…。フラメンコ(本来は踊りではなく唄のことを指す)に魅せられ、自らも唄い手になってしまった画家が、南部スペイン・アンダルシアの魅力をあますところなく描く。ヒターノ(ジプシー)たちとの友情、音楽への愛。スペイン在住二十年の著者ならではの深い洞察がにじむ、絶妙な語り口の傑作エッセイ。

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ところで、このスペインブームは、セビリャ万博の終了をもって、静かに去るだろう。したがって、ここに挙げた本くらいは、絶版にならぬうちに購入しておくよう、おすすめするしだいである。

【このコラムが収録されている書籍】
書物の旅  / 逢坂 剛
書物の旅
  • 著者:逢坂 剛
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(355ページ)
  • 発売日:1998-12-01
  • ISBN-10:4062639815
  • ISBN-13:978-4062639811
内容紹介:
「掘り出し物」とは、高値のつくべき古本を安く探し出すことではなく、自分一人にとって、掛けがえのない価値のある本と出会うこと。世界一の古書店街、神保町を根城とする名うての本読みが、自信をもってすすめる納得の本、本、本。作品別の索引がついた、絶対に面白い本の読み方、楽しみ方を綴る書物エッセイ。

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朝日新聞 1992年5月3日

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