スペイン内戦の悲惨、鋭く描く
スペイン内戦がらみの小説は、ヘミングウェイやマルローが傑作を書いたが、当のスペイン作家の作品は政治的な事情もあってか、きわめて少ない。その、珍しい例の一つが本書、アヤラの5作からなる中短編集である。いずれも、国が二つに分かれて戦い、最終的に反乱軍が勝利した悲惨な内戦を通奏低音としている。スペイン本国に限らず、スペイン語圏の小説はなぜか観念的、哲学的なものが多い。「タホ川」をのぞき、すべて一人称で語られる本書の作品群も、おおむね思索的な独白で始まる。それが、途中でにわかにドラマチックな展開になり、ストーリーが躍動し始めるから、虚をつかれる。
冒頭作の「言伝(メンサヘ)」は、いったい何者がどういう目的で、意味不明のメモを残したのかという謎で、最後まで息もつかせず、引っ張っていく。これはまさに、優れたミステリー小説の手法である。翻訳の歯切れのよさも、この作品集の白眉(はくび)といってよい。
「タホ川」は、共和国軍の兵士を殺した反乱軍の兵士が戦後、遺族を探して会いに行く話。内戦に詳しい読者は、ここで主人公が真実を告白して贖罪(しょくざい)を求める、といった美談的展開を予想するだろう。しかし、この国の状況はそれを許さぬほど複雑だった。外国人には想像しえない、内戦の実情をなんの感傷も交えずに鋭く描き出している。
表題作の「仔羊の頭」は、モロッコのフェズを舞台にした、奇譚(きたん)中の奇譚である。同姓の家に招かれた主人公が、親族に降りかかった内戦の悲劇を、いやおうなしに吐露せざるをえない状況に、追い込まれる。最大のごちそうであるはずの、仔羊の頭を出されて消化不良を起こし、ひどく苦しむ結末は言うまでもなく、内戦がいまだに未消化であることを、象徴している。
いずれも、内戦を知らぬ世代にも強く訴える、普遍性に満ちた作品集である。