書評

『密売人』(角川春樹事務所)

  • 2017/11/10
密売人 / 佐々木 譲
密売人
  • 著者:佐々木 譲
  • 出版社:角川春樹事務所
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2011-08-01
  • ISBN-10:475841176X
  • ISBN-13:978-4758411769
内容紹介:
10月も半ばを過ぎ肌寒くなってきた北海道で、ほぼ同時期に三つの死体が発見された。函館の病院にて為田俊平の転落死、釧路の漁港にて飯盛周の水死、小樽の湖畔にて赤松淳一の焼死。それぞれの… もっと読む
10月も半ばを過ぎ肌寒くなってきた北海道で、ほぼ同時期に三つの死体が発見された。函館の病院にて為田俊平の転落死、釧路の漁港にて飯盛周の水死、小樽の湖畔にて赤松淳一の焼死。それぞれの事件は個々に捜査が行われ、津久井卓巡査は小樽の事件を追っていた。一方、札幌大通署生活安全課所属の小島百合巡査は、登校途中の女子児童が連れ去られた一件に、不穏な胸騒ぎを感じていた。三か所で起こった殺人と小島の話から、次に自分のエス(協力者)が殺人の狙いになると直感した佐伯宏一警部補は、一人裏捜査を始めるのだが・・・・・・。

四つの事件がつなぐ警察の暗部

このタイトルから、読者は拳銃や覚醒剤の密売を、想起するだろう。しかし、話はそれほど単純ではない。そこに思わぬ仕掛けがある。

30年ほど前、デビューした当時の著者は、バイクをテーマにした青春小説を、得意としていた。その後、ミステリーや冒険小説に枠を広げ、さらに戦争ものや謀略もの、幕末ものや明治ものにも、手を染めるようになる。

こうした多彩な作風のせいか、直木賞とは長いあいだ縁がなかったが、昨年ようやく警察小説『廃墟(はいきょ)に乞う』で、念願の受賞を果たした。今や著者は、警察小説の人気作家の一人として、広く認知される存在になった。もっとも評者は、著者のどの分野の作品も、底に流れるのはデビュー当時と変わらぬ、青春のたぎる血潮だと思っている。

さて本書は、冒頭で一見なんの関係もなさそうな、三つの死体が発見されるところから、物語が始まる。続いて、幼児誘拐とも思われる、一家3人の失踪事件が発生する。これら、別個の四つの事件について、北海道警の担当刑事たちが、それぞれ捜査を開始する。読者は、当面その4件がどこで、どうつながるのか見極めがつかず、刑事たちのあとについて行くしかない。

やがて、三つの死体に共通の背景があることが分かり、捜査陣は相互に連携をとり始める。さらに、失踪した家族の夫も、それに関係していることが判明し、事件はにわかに活気を帯びる。共通の背景が、何であるか明らかにされたとき、タイトルの意味が理解される。いったい、だれが何を密売したのか? その真相は、近年世論で批判を浴びるようになった、警察の不祥事に関わることだが、ここではあえて触れまい。

ちなみに、警察機構の暗部をえぐりながら、警察官個人に対する畏敬(いけい)を忘れぬところに、著者なりの節度がうかがわれて、快いものがある。

ベテランの好著である。

廃墟に乞う  / 佐々木 譲
廃墟に乞う
  • 著者:佐々木 譲
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(366ページ)
  • 発売日:2012-01-04
  • ISBN-10:4167796031
  • ISBN-13:978-4167796037
内容紹介:
十三年前に札幌で起きた殺人事件と、同じ手口で風俗嬢が殺害された。道警の敏腕刑事だった仙道が、犯人から連絡を受けて、故郷である旧炭鉱町へ向かう表題作をはじめ北海道の各地を舞台に、任務がもとで心身を耗弱し休職した刑事が、事件に新たな光と闇を見出す連作短編警察小説。第百四十二回直木賞受賞作。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

密売人 / 佐々木 譲
密売人
  • 著者:佐々木 譲
  • 出版社:角川春樹事務所
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2011-08-01
  • ISBN-10:475841176X
  • ISBN-13:978-4758411769
内容紹介:
10月も半ばを過ぎ肌寒くなってきた北海道で、ほぼ同時期に三つの死体が発見された。函館の病院にて為田俊平の転落死、釧路の漁港にて飯盛周の水死、小樽の湖畔にて赤松淳一の焼死。それぞれの… もっと読む
10月も半ばを過ぎ肌寒くなってきた北海道で、ほぼ同時期に三つの死体が発見された。函館の病院にて為田俊平の転落死、釧路の漁港にて飯盛周の水死、小樽の湖畔にて赤松淳一の焼死。それぞれの事件は個々に捜査が行われ、津久井卓巡査は小樽の事件を追っていた。一方、札幌大通署生活安全課所属の小島百合巡査は、登校途中の女子児童が連れ去られた一件に、不穏な胸騒ぎを感じていた。三か所で起こった殺人と小島の話から、次に自分のエス(協力者)が殺人の狙いになると直感した佐伯宏一警部補は、一人裏捜査を始めるのだが・・・・・・。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2011年9月18日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
逢坂 剛の書評/解説/選評
ページトップへ