書評

『天使のゲーム』(集英社)

  • 2017/07/01
天使のゲーム〈上〉  / カルロス・ルイス・サフォン
天使のゲーム〈上〉
  • 著者:カルロス・ルイス・サフォン
  • 翻訳:木村 裕美
  • 出版社:集英社
  • 装丁:ペーパーバック(433ページ)
  • 発売日:2012-07-20
  • ISBN-10:4087606465
  • ISBN-13:978-4087606461
内容紹介:
1917年、バルセロナ。17歳のダビッドは、雑用係を務めていた新聞社から、短篇を書くチャンスを与えられた。1年後、独立したダビッドは、旧市街の"塔の館"に移り住み、執筆活動を続け… もっと読む
1917年、バルセロナ。17歳のダビッドは、雑用係を務めていた新聞社から、短篇を書くチャンスを与えられた。1年後、独立したダビッドは、旧市街の"塔の館"に移り住み、執筆活動を続ける。ある日、謎の編集人から、1年間彼のために執筆するかわりに、高額の報酬と"望むもの"を与えるというオファーを受ける。世界的ベストセラー『風の影』に続いて"忘れられた本の墓場"が登場する第2弾。

現実と夢 めくるめく幻想世界

本書は、著者の前作『風の影』に次ぐ、〈忘れられた本の墓場〉シリーズの、2作目に当たる。舞台は、同じスペインのバルセロナだが、時代背景は1作目より15年以上前の、1920年代。1作目の『風の影』は、本書が終わったところから始まる、という逆順の構成になっている。

若い作家ダビッド・マルティンは、コレッリという謎の編集者から、奇妙な原稿の注文を受ける。〈塔の館〉と呼ばれる、古い屋敷にこもったダビッドは、押しかけ助手のイサベッラという少女に、身のまわりの世話を受けつつ、執筆に取りかかる。ダビッドには別に、クリスティーナという恋人がいるが、彼女はダビッドの友人であり庇護者(ひごしゃ)でもある、ペドロ・ビダルと結婚してしまう。

物語は、コレッリとダビッドの哲学的な会話や、イサベッラとダビッドの、丁々発止の掛け合いで淡々と進み、その合間に活劇まがいの、さまざまな事件が織り込まれる。読み進むうちに、コレッリが実在しない人物のように見え始め、また非業の最期を遂げた〈塔の館〉の、前の持ち主の運命がそのまま、ダビッドの身にふりかかるように、思われてくる。このあたりは、前作同様現実と夢が複雑に交錯して、読む者をめくるめく幻想の世界に引きずり込む。

ダビッドの意に反して、あるいは作者の意に反して、クリスティーナを巡る恋物語よりも、助手イサベッラのいちずな献身の方が、読む者の心を打つ。あるいは作者の思い入れも、イサベッラに対する方が、深いのかもしれない。その証拠に、本書の最後で、イサベッラは〈センペーレの息子〉と結婚し、2人のあいだにできた息子が、前作『風の影』の主人公、ダニエル・センペーレになるのだ。

かかる傑作を、いきなり文庫本で読めるのは幸せなことなのか、不幸なことなのか。昨今の出版事情を考えると、まことに複雑なものがある。
天使のゲーム〈上〉  / カルロス・ルイス・サフォン
天使のゲーム〈上〉
  • 著者:カルロス・ルイス・サフォン
  • 翻訳:木村 裕美
  • 出版社:集英社
  • 装丁:ペーパーバック(433ページ)
  • 発売日:2012-07-20
  • ISBN-10:4087606465
  • ISBN-13:978-4087606461
内容紹介:
1917年、バルセロナ。17歳のダビッドは、雑用係を務めていた新聞社から、短篇を書くチャンスを与えられた。1年後、独立したダビッドは、旧市街の"塔の館"に移り住み、執筆活動を続け… もっと読む
1917年、バルセロナ。17歳のダビッドは、雑用係を務めていた新聞社から、短篇を書くチャンスを与えられた。1年後、独立したダビッドは、旧市街の"塔の館"に移り住み、執筆活動を続ける。ある日、謎の編集人から、1年間彼のために執筆するかわりに、高額の報酬と"望むもの"を与えるというオファーを受ける。世界的ベストセラー『風の影』に続いて"忘れられた本の墓場"が登場する第2弾。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2012年9月9日

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