読書日記

桜木紫乃『光まで5分』、亀和田武『雑誌に育てられた少年』、坪内祐三『テレビもあるでよ』、佐々木譲『砂の街路図』、山折哲雄『老いと孤独の作法』

  • 2019/01/25
桜木紫乃といえば北海道、というイメージがあるが、『光まで5分』は沖縄が舞台。北海道から流れてきた女ツキヨは体を売って生活。歯痛になり、モグリの歯医者万次郎、彼と同居する若者ヒロキと出会い、一緒に暮らし始める。

ヒロキを保護しつつ、彼の背にモナリザのタトゥーを入れる万次郎。ツキヨを含む“聖三角形”を、著者は「傷だらけの天使」として描く。3人を労(いたわ)り見つめる、著者の情感あふれる筆が素晴らしい。

穏やかに生きる彼らを揺るがす、ダニのような男・南原は、悪い金を吸い上げ、ヒロキを痛めつけ犯す。そして奥武島(おうじま)に渡ったツキヨたち。祈るユタ「おばあ」は、彼女を諭すように言う。「流された先にあるものをしっかり見なさい。ぜんぶ受け容れて、すべてを赦してやんなさい」

甘く熱い沖縄の空気に包まれ、泥の中に咲く花のような物語だ。「光までの長い5分間」を求めてよろよろと歩く人たち。結末はバッド。しかし清々(すがすが)しい。

光まで5分 / 桜木紫乃
光まで5分
  • 著者:桜木紫乃
  • 出版社:光文社
  • 装丁:単行本(200ページ)
  • 発売日:2018-12-13
  • ISBN:4334912559

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1970年代に晶文社が作った『ワンダー植草・甚一ランド』など雑文を集成したバラエティーブックは、後進に多大な影響を及ぼした。亀和田武『雑誌に育てられた少年』の作り方もまさしくそれ。

元自販機エロ雑誌の編集長、SF作家、テレビ司会者、コラムニストと変幻自在な著者の膨張する仕事は、このスタイルにぴったり。とても要約はできないが、片々たるアンケート文にも、スリルのある言動が光っている。

赤田(あかた)祐一のインタビューで「僕にとっては、学生運動もエロ本もSFも劇画も、全部ポップカルチャーだった。その点では、全くジャンルに貴賤(きせん)なし」と答えているが、その意気は、約400ページ全てに漲(みなぎ)っているし、じつに存在そのものがポップだ。

鏡明(かがみあきら)との対談では、60年代SFの同好会が熱く語られる。個人的には、伊藤咲子「乙女のワルツ」評をはじめとする歌謡曲論にビンビンと呼応した。分かっている人の文章は気持ちがいい。

雑誌に育てられた少年 / 亀和田 武
雑誌に育てられた少年
  • 著者:亀和田 武
  • 出版社:左右社
  • 装丁:単行本(384ページ)
  • 発売日:2018-11-30
  • ISBN:4865282130

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坪内祐三の本誌連載を中心にまとめたのが『テレビもあるでよ』。新聞のテレビ評はドラマ中心だが、著者の関心はドキュメンタリー、バラエティー、スポーツに大きく傾く。「じゅん散歩」のお手軽ぶりを一度批判しながら、自身の土地勘がある三軒茶屋編をチェックし、「コンクな作り」と称賛する。生でも見る大相撲では、千秋楽に限りテレビで見る方が面白いと、テレビ視聴の醍醐味(だいごみ)を披歴している。とんねるず石橋のから揚げ調理の話題など、何一つ見逃さない「動体視力」は天晴(あっぱ)れ。

テレビもあるでよ / 坪内 祐三
テレビもあるでよ
  • 著者:坪内 祐三
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(245ページ)
  • 発売日:2018-11-29
  • ISBN:4309027628
内容紹介:
いつも「最近のテレビはつまらない」と言いつつ、テレビばかり観ている著者がドラマ、ニュースなどあらゆる番組を鋭く批評する。

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佐々木譲(じょう)の長編『砂の街路図』。北海道の古い運河の町を、高校教師の俊也が過去を訪ねて歩く。幼い頃、母と自分を置いて突然失踪し、運河に死体として浮かんだ父。不審な死の真相を追って俊也は北海道へ。遺留品の酒場のマッチを頼りに父の過去を調べると、それは町の過去、両親が通った大学の記憶につながっていく。しかし、みんな何かを隠している。1年で潰(つい)えた漕艇(そうてい)部の栄光、自殺した女性と、謎は深まっていく。父が葬り去ろうとした過去に迫る時、悲しい事実が待ち受けていた。

砂の街路図 / 佐々木 譲
砂の街路図
  • 著者:佐々木 譲
  • 出版社:小学館
  • 装丁:文庫(317ページ)
  • 発売日:2018-11-06
  • ISBN:4094065768
内容紹介:
父が隠していた、嘘より哀しい死の真相とは なぜ父は幼い自分を捨てて失踪し、死んでしまったのか――。母の四十九日を終えた岩崎俊也は、父の死の真相を求めて、両親が青春時代を過ごした北海道の運河町へと旅立つ。二十年前、父が溺死する直前まで飲んでいた酒場の店主によれば、同じ法科大学漕艇… もっと読む
父が隠していた、嘘より哀しい死の真相とは

なぜ父は幼い自分を捨てて失踪し、死んでしまったのか――。母の四十九日を終えた岩崎俊也は、父の死の真相を求めて、両親が青春時代を過ごした北海道の運河町へと旅立つ。二十年前、父が溺死する直前まで飲んでいた酒場の店主によれば、同じ法科大学漕艇部員だった女性の密葬に参加するために滞在していたらしい。さらに、昭和44年に漕艇部で起きたある事件を機に、陽気だった父の人柄が激変したことを知る。
この街には、僕の知らない父がいた。
父が隠し続けた、ぬぐいきれない恥辱と罪悪感。
知られたくない、でも忘れられない過去がある。
果たして、父は事件に関係していたのか? 家族にさえ隠し続けていた苦悩と死の真相とは?
会心の野心作にして、まったく新しい「家族ミステリー」が誕生!! 解説は中江有里氏。

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宗教学者の山折哲雄『老いと孤独の作法』で、余生が長くなった現在、老後を「林住(りんじゅう)期」と「遊行(ゆぎょう)期」に分けて考えることを勧める。西行、芭蕉、良寛など、第二の人生を上手(うま)く生きた先人に学びつつ、アレンジして自分の余生を見つめてみる。日本では古来、老人は死を経て神となる。それを解く鍵は「挽歌の世界」にある。あるいはBC級戦犯たちの減刑活動を続けた「巣鴨の父」田嶋隆純(りゅうじゅん)の生涯を伝える一章など、つねに「死」を直視するところから生まれた、老境の哲学が語られる。

老いと孤独の作法 / 山折 哲雄
老いと孤独の作法
  • 著者:山折 哲雄
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(251ページ)
  • 発売日:2018-10-06
  • ISBN:4121506332
内容紹介:
日本人の伝統的な死生観をさぐり、老い方の作法を考える。人生の後半期をどう生きるかを模索している人たちへのヒントが満載。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年1月20日号

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