書評
『桃色東京塔』(文藝春秋)
刑事の男と女、自己再生の物語
一般に、警察小説といえば男性作家を想起するが、実は女性作家にも書き手はいる。本書の著者も、その一人である。この連作短編集の強みは、2人の男女の心象風景の違いを、都会と地方の格差に託して丹念に描き、単なる捜査小説に終わらせていない点だ。むろん事件があり、それなりの解決もあるのだが、著者の関心はむしろそこにはない、と思える。
各編が独立した物語だが、全体として警視庁の刑事黒田岳彦と、ある過疎村の女性刑事小倉日菜子の、微妙な交情が通奏低音を奏でる。黒田は、捜査上のミスから挫折し、出世をあきらめた独身刑事。日菜子は、同じ警察官の夫を飲酒運転者にひき殺され、喪失感に悩む刑事。この2人が、ある事件をきっかけに知り合い、互いに引かれていく過程が、ゆったりしたペースで描かれる。
活劇シーン、ラブシーン一つない淡々とした筆運びなのに、2人が登場する場面は情感豊かで、胸にしみてくる。女性作家ならではの、独特の世界がそこにある。これは警察小説の形を借りた、男女の自己再生の物語、ともいえよう。
朝日新聞 2010年6月27日
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