書評

『桃色東京塔』(文藝春秋)

  • 2017/08/22
桃色東京塔 / 柴田 よしき
桃色東京塔
  • 著者:柴田 よしき
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(369ページ)
  • 発売日:2010-05-13
  • ISBN-10:416329130X
  • ISBN-13:978-4163291307
内容紹介:
警視庁捜査一課勤務の刑事・黒田岳彦は、ある事件の捜査でI県警上野山署捜査課係長・小倉日菜子と出会う。過疎の村で働く日菜子は警官の夫を職務中に亡くしている未亡人で、東京に対して複雑な思いを抱いていた。捜査が進むなか岳彦と日菜子は少しずつ心を通わせてゆくが、あらたに起きるさまざまな事件が、ふたりの距離を微妙に変えていって…。異色の連作短編集。

刑事の男と女、自己再生の物語

一般に、警察小説といえば男性作家を想起するが、実は女性作家にも書き手はいる。本書の著者も、その一人である。

この連作短編集の強みは、2人の男女の心象風景の違いを、都会と地方の格差に託して丹念に描き、単なる捜査小説に終わらせていない点だ。むろん事件があり、それなりの解決もあるのだが、著者の関心はむしろそこにはない、と思える。

各編が独立した物語だが、全体として警視庁の刑事黒田岳彦と、ある過疎村の女性刑事小倉日菜子の、微妙な交情が通奏低音を奏でる。黒田は、捜査上のミスから挫折し、出世をあきらめた独身刑事。日菜子は、同じ警察官の夫を飲酒運転者にひき殺され、喪失感に悩む刑事。この2人が、ある事件をきっかけに知り合い、互いに引かれていく過程が、ゆったりしたペースで描かれる。

活劇シーン、ラブシーン一つない淡々とした筆運びなのに、2人が登場する場面は情感豊かで、胸にしみてくる。女性作家ならではの、独特の世界がそこにある。これは警察小説の形を借りた、男女の自己再生の物語、ともいえよう。
桃色東京塔 / 柴田 よしき
桃色東京塔
  • 著者:柴田 よしき
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(369ページ)
  • 発売日:2010-05-13
  • ISBN-10:416329130X
  • ISBN-13:978-4163291307
内容紹介:
警視庁捜査一課勤務の刑事・黒田岳彦は、ある事件の捜査でI県警上野山署捜査課係長・小倉日菜子と出会う。過疎の村で働く日菜子は警官の夫を職務中に亡くしている未亡人で、東京に対して複雑な思いを抱いていた。捜査が進むなか岳彦と日菜子は少しずつ心を通わせてゆくが、あらたに起きるさまざまな事件が、ふたりの距離を微妙に変えていって…。異色の連作短編集。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2010年6月27日

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