書評

『64(ロクヨン)』(文藝春秋)

  • 2017/07/01
64 / 横山 秀夫
64
  • 著者:横山 秀夫
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(647ページ)
  • 発売日:2012-10-26
  • ISBN-10:4163818405
  • ISBN-13:978-4163818405
内容紹介:
警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。

記者と警察、せめぎ合う迫力

著者7年ぶりの長編は、期待を裏切らぬ渾身(こんしん)の力作だ。

D県警警務部の広報官、三上義信警視は元捜査二課に所属する、辣腕(らつわん)の刑事だった。それが、人事抗争の余波で刑事畑をはずされ、広報官に回されたことで、内心鬱々(うつうつ)たるものがある。しかも一人娘、あゆみが家出して行方不明、という悩みを抱えている。

こうした状況のもとで、三上はしたたかな記者クラブを相手に、交通事故を起こした妊婦の匿名問題や、警察庁長官の緊急視察問題を巡り、体を張って対峙(たいじ)する。長官視察には、14年前に発生した未解決事件、〈ロクヨン〉と符丁で呼ばれる少女誘拐事件が、関わっている。どうやら、本庁は地元警察官の花形ともいうべき、県警刑事部長のポストに、キャリアを送り込む算段らしい……。

著者はデビュー以来、犯罪捜査を主体とする従来の警察小説に、斬新な視点を持ち込んできた。本書もまた、記者クラブと警察広報のせめぎ合いを、臨場感あふれる迫力で描き出し、あますところがない。加えて、キャリアと地元警察官の対立、刑事部と警務部のすさまじい軋轢(あつれき)など、さまざまなコンフリクトが同時進行で、絡み合う。

物語は、終始三上の視点で進められ、読者は三上の内省と独白によって、小説世界を引きずり回される。ハードボイルドの観点からは、主人公の心理を書き込みすぎるきらいが、ないでもない。しかし、一人称を避けて三人称を採用したところに、あえて客観の世界に踏みとどまろうとする、著者の姿勢が明示されている。

終盤の、新たな誘拐事件の追跡劇は、圧倒的なスピード感をもって展開され、息を継ぐいとまもない。やや強引な結末も、その熱気の余韻によって、十分なカタルシスとなる。著者雌伏の7年は、ワイン樽(たる)の底の澱(おり)までさらうような、烈々たる本書の仕事によって、十分に報われた(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2012年)。
64 / 横山 秀夫
64
  • 著者:横山 秀夫
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(647ページ)
  • 発売日:2012-10-26
  • ISBN-10:4163818405
  • ISBN-13:978-4163818405
内容紹介:
警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2012年11月18日

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