読書日記

向田和子『向田邦子の手料理』(講談社)、桐島洋子『聡明な女は料理がうまい』(アノニマ・スタジオ)、檀一雄『檀流クッキング』(中央公論新社)

  • 2018/07/21

料理と人生 賢く熱く

バブル世代の働く女性の本棚には、必ず<1>向田和子監修『向田邦子の手料理』(講談社・1,728円)が一冊あると言われていて、かく言う私もその一人です。

向田邦子亡き後、妹の和子さんの手によって手料理が再現され、写真やエッセイ等と共に編まれたこの本。食べることに熱心で、手間暇かけずに美味(おい)しいものを作って振る舞うのが好きだったという向田邦子の生活、ひいては人生そのものが見えてきます。 

私達はこの本を読んで、料理の一つもできる「いい女」を目指したのでしょう。

昭和最後の年に刊行されたこの本は、今も版を重ねています。

食べることと生きることをスマートに楽しむ、というライフスタイルは、その後もずっと支持されているのです。

向田邦子の手料理 / 向田 和子
向田邦子の手料理
  • 著者:向田 和子
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(131ページ)
  • 発売日:1989-05-22
  • ISBN-10:4062043173
  • ISBN-13:978-4062043175
内容紹介:
自慢の味をいっぱい持ち、「作り上手」で「食べ上手」だった向田さん。とびっきりの食いしん坊作家の食卓を彩ったおかずを、エッセイや小説などのアンソロジーも添えてご紹介します。お料理は、向田さんの味を最もよく知る、末の妹さん、和子さんに再現していただきました。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

向田邦子はまさに<2>『聡明(そうめい)な女は料理がうまい』を地で行く人であったわけですが、この名コピーは昭和51年に刊行されベストセラーとなった桐島洋子の本のタイトル。

こちらは近年、アノニマ・スタジオから復刊(KTC中央出版発売、1,728円)されています。

働く女であり、母親であり、また恋する女でもある著者が記すと、料理が“主婦の義務”から解放されるのが、痛快なところ。

読むうちに読者をやる気にさせるのですが、その時の「やる気」とは、単に料理を「作る気」ではありません。旺盛に生きよう、という気持ちがかきたてられる本なのです。

聡明な女は料理がうまい / 桐島 洋子
聡明な女は料理がうまい
  • 著者:桐島 洋子
  • 出版社:アノニマ・スタジオ
  • 装丁:単行本(309ページ)
  • 発売日:2012-09-01
  • ISBN-10:4877587128
  • ISBN-13:978-4877587123

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しかし料理は、聡明な女だけのものではありません。昭和の名料理エッセイといえば<3>檀一雄『檀流クッキング』(中公文庫・720円)もあります。こちらも最近、カラー写真や未収録の原稿も収めた『完本 檀流クッキング』(集英社・3,132円)が、子息の檀太郎夫妻によって、新たな装いで登場しました。

「料理が、食べることが、好きでたまらない」という熱情が、この本にはたっぷり詰まっています。のみならず、読むうちに国内あちこち、ポルトガル、韓国…と、各地を旅しているような気持ちにもなってくるのです。

「断乎(だんこ)として、梅干しを漬けなさいと申し上げる」

「檀の言うことを聞け」

という明治最後の年に生まれた作家の断言口調は、このふわふわした時代においてはむしろ心地よく、食べることへの熱情は、世代も性別もそして国境をも越えるということを実感させられる本書。料理上手の生き方は、やっぱり面白いのです。

檀流クッキング / 檀 一雄
檀流クッキング
  • 著者:檀 一雄
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(248ページ)
  • 発売日:2002-09-25
  • ISBN-10:4122040949
  • ISBN-13:978-4122040946
内容紹介:
「この地上で、私は買い出しほど、好きな仕事はない」という著者は、文壇随一の名コック。日本はおろか、世界中の市場を買いあさり、材料を生かした豪快な料理九十二種を紹介する"美味求真"の快著。

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完本 檀流クッキング / 檀 一雄,檀 太郎,檀 晴子
完本 檀流クッキング
  • 著者:檀 一雄,檀 太郎,檀 晴子
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(456ページ)
  • 発売日:2016-03-25
  • ISBN-10:4087807800
  • ISBN-13:978-4087807806
内容紹介:
料理エッセイの名作が完全版で帰ってきました。これまで書籍未収録だった64本も併せた全158作。すべてのレシピを長男・檀太郎&晴子夫妻が料理して紹介します。書斎でもキッチンでも大活躍!の保存版。


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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2016年5月

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