後書き

『[図説]食からみる台湾史: 料理、食材から調味料まで』(原書房)

  • 2025/03/18
[図説]食からみる台湾史: 料理、食材から調味料まで / 翁佳音,曹銘宗
[図説]食からみる台湾史: 料理、食材から調味料まで
  • 著者:翁佳音,曹銘宗
  • 翻訳:川 浩二
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2025-03-26
  • ISBN-10:4562075252
  • ISBN-13:978-4562075256
内容紹介:
台湾は地理的にも歴史的にも、多くの文化が入り交じってきた。それは食にも及び、料理、食材、調理法、道具に至るまで原住民族の文化と融合した。美食といえば台湾の名が挙がるようになるまでを豊富な資料と図版で丹念に追う。
台湾は地理的にも歴史的にも、多くの文化が入り交じってきた。それは食にも及び、料理、食材、調理法、道具に至るまで原住民族の文化と融合した。美食といえば台湾の名が挙がるようになるまでを豊富な資料と図版で丹念に追った書籍『[図説]食からみる台湾史』から、訳者あとがきを公開します。

おいしい台湾をもっと知りたい人へ

「台湾に行ってきたの、いいなあ! おいしいものいっぱいありますよね」

そんなふうにうらやましがられるようになってから、もう十数年になる。たしかに今の日本から台湾への興味は「食」に集中している。ガイドブックや雑誌でも、とにかく目立つのは食べものに関する記事だ。だとすれば、その食を入口に台湾の歴史に迫る本書は、「おいしい」から次の一歩を踏み出すのに最適の1冊といえる。

本書の原題は『吃的台湾史 荷蘭伝教士的麵包、清人的鮭魚缶頭、日治的牛肉吃法,尋找台湾的飲食文化史』、そのまま訳すと『食べる台湾史 オランダ人宣教師のパン、清人のサケ缶詰、日本統治時代の牛肉の食べ方、台湾の飲食文化史を探る』となる。

共著者2人は、曹銘宗が作家としての立場から「疑問」つまり書くべきテーマを考え、翁佳音が研究者としての調査技法を駆使して「解答」すなわち書くべき内容を決め、さらにそれを曹銘宗が一般の読者に伝わるように書き直す、という形式で本書を執筆した。このような執筆の過程を経たからこそ、多くの一次資料に当たり、かなり大胆に自説を展開し、他の本に見られない内容が多いにもかかわらず、何の知識のない状態からでも読めるという本になっている。

台湾の歴史として一般的にもっとも多く紙幅が割かれるのは、鄭氏時代から清朝初期にかけてと日本統治時代だろう。それに対して本書は特にオランダ・スペイン統治時代に着目し、さらにそれ以前の時代についてもしばしば取り上げる。

そのさい先住民族を含めて台湾の文化全体を考え、さらにそれを台湾の内部だけで固定したものと見ず、「オーストロネシア語族文化圏」を想定する。東南アジアを含めた広い地域の中で流動性があり、影響し合ったものとして考えている。

また華人についても、とりわけ福建から広東にまたぐ「漳州・泉州・潮州文化圏」の影響を強調する。それが清朝とその後の日本統治時代を経て、福建出身者の側と広東出身の「客家」の側にそれぞれ吸収されてしまい、現在では見えにくくなってしまっていることは、民間信仰や演劇・芸能の分野の研究からも指摘されている。本書は食文化に焦点を当てて同様のことを想定し、台湾の文化の基層を探る試みをしているのである。

もちろん日本統治時代にもふれるところはあるが、それはしばしば一般的に定着した説を解体、再構成するためという部分が大きい。たとえばからすみについては、現在の製法は日本統治時代から伝わるものではあっても、清代前期にすでにボラの卵を塩漬けして乾かし「烏魚子」と呼ばれていたことが書かれている。これは日本におけるからすみの歴史を考える上でも重要な指摘だろう。

タピオカ入りのミルクティー「珍珠奶茶」はもちろんごく近年に定着したものだが、本書の方法に従えば、そこには前近代からあるサゴパールやサツマイモでんぷんから作っただんご「粉円」などへの嗜好が基礎になっていることが分かる。

台湾でよく食べられる「三杯鶏」についても同様で、名称とレシピが一般化したのは歴史が浅くとも、そこに使われる生姜、ごま油、米酒は前近代から風味が好まれ、体を温め産後の女性の体の回復を補う効果が認められていたことのほうに重点を置く。

魚や魚卵の塩蔵食品と魚醬についても章をまたいで取り上げられている。とくに魚醬の製造と使用については、台湾では近世まではかなり一般的で、沿岸部では自家製もしばしばしていたが、近代にかけて醬油の生産規模の拡大によって淘汰されていったことが書かれており、その様相は日本各地とも重なる。そして台湾で「鰹節」や「沙茶醬」が今でも使われているのは、魚由来の香りやうまみが親しまれてのことなのだろうと分かるようになる。

一つひとつの料理にまだ名前のなかったころ、台湾に住む人々は何を食べていたのか、ある食材をいかに食べていたのか、文献をたどりながら考える本書の方法は、通読することで反復しながら深く理解できるようになっている。

[書き手]川浩二(文学者、翻訳家)
[図説]食からみる台湾史: 料理、食材から調味料まで / 翁佳音,曹銘宗
[図説]食からみる台湾史: 料理、食材から調味料まで
  • 著者:翁佳音,曹銘宗
  • 翻訳:川 浩二
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2025-03-26
  • ISBN-10:4562075252
  • ISBN-13:978-4562075256
内容紹介:
台湾は地理的にも歴史的にも、多くの文化が入り交じってきた。それは食にも及び、料理、食材、調理法、道具に至るまで原住民族の文化と融合した。美食といえば台湾の名が挙がるようになるまでを豊富な資料と図版で丹念に追う。

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