書評
『すき焼き通』(平凡社)
舌なめずりの読書
味というものは、しょせん食ってみなくては分からない。たとえ、どんなに美麗なグラビア写真であろうとも、おおかたの想像はできるけれど隔靴掻痒を免れない。いや、味を想像できるかどうかはこちらの舌の記憶に依拠するので、全く食べたことのないものの味など想像できるものではない。しかるに、すき焼きとなると、これはもう食べたことのない人なんているとも思えない。
本書の著者は尋常ではなくすき焼きが好きらしく、その天下の名品を探訪し肉迫し記録し描写すること、常軌を逸して鬼気迫るものがある。それゆえ、この本を読むと、日本各地に伝わるすき焼きのあれこれが如実にわかって、さっそく試してみたいという誘惑を感じさせる。
私なども、人後に落ちない食いしん坊であるが、たとえば、松阪牛も近江牛も神戸牛も、みなその生まれは但馬なのだと本書で知って、へへえとびっくりした。そうやって、牛肉の歴史や、現状や、未来までも篤実に究明したところは大いにためになるが、それでもやっぱりこの本の「味わい」は、著者の食いしん坊ぶりが遺憾なく発揮されている、食べ歩きの記録のところである。
ああ、うまそうだ。万事はこの調子で、読み終わるころには、さっそく牛肉とネギを買いに走ろうかという気合いになる。
まさに食いしん坊の魂躍如たる一冊。味がそのまま文字に凝縮しているという珍しい新書本である。
味というものは、しょせん食ってみなくては分からない。たとえ、どんなに美麗なグラビア写真であろうとも、おおかたの想像はできるけれど隔靴掻痒を免れない。いや、味を想像できるかどうかはこちらの舌の記憶に依拠するので、全く食べたことのないものの味など想像できるものではない。しかるに、すき焼きとなると、これはもう食べたことのない人なんているとも思えない。
本書の著者は尋常ではなくすき焼きが好きらしく、その天下の名品を探訪し肉迫し記録し描写すること、常軌を逸して鬼気迫るものがある。それゆえ、この本を読むと、日本各地に伝わるすき焼きのあれこれが如実にわかって、さっそく試してみたいという誘惑を感じさせる。
私なども、人後に落ちない食いしん坊であるが、たとえば、松阪牛も近江牛も神戸牛も、みなその生まれは但馬なのだと本書で知って、へへえとびっくりした。そうやって、牛肉の歴史や、現状や、未来までも篤実に究明したところは大いにためになるが、それでもやっぱりこの本の「味わい」は、著者の食いしん坊ぶりが遺憾なく発揮されている、食べ歩きの記録のところである。
ようやく鍋が熱くなって、肉がジュウジュウいいはじめ、いい具合にうねりはじめる。醤油と砂糖が入り混じり、いかにもすき焼きのたれといった感じ。そのたれが肉の表面にすすすっと広がっていく。
ああ、うまそうだ。万事はこの調子で、読み終わるころには、さっそく牛肉とネギを買いに走ろうかという気合いになる。
まさに食いしん坊の魂躍如たる一冊。味がそのまま文字に凝縮しているという珍しい新書本である。
初出メディア

スミセイベストブック スミセイ2008年1月号
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