書評

『すき焼き通』(平凡社)

  • 2024/01/23
すき焼き通 / 向笠 千恵子
すき焼き通
  • 著者:向笠 千恵子
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(256ページ)
  • 発売日:2008-10-01
  • ISBN-10:4582854397
  • ISBN-13:978-4582854398
内容紹介:
明治の文明開化で始まった牛鍋は、新しい日本のごちそう、すき焼きとして広まった。その味を全国の老舗すき焼き店にたずね、手塩にかけて育てられた名牛の肉から、個性的な調理法と食材、食べ方の流儀まで、日本人に最も愛され、幸福感あふれる料理、すき焼きの食文化とその美味の秘密を熱く語る。
舌なめずりの読書

味というものは、しょせん食ってみなくては分からない。たとえ、どんなに美麗なグラビア写真であろうとも、おおかたの想像はできるけれど隔靴掻痒を免れない。いや、味を想像できるかどうかはこちらの舌の記憶に依拠するので、全く食べたことのないものの味など想像できるものではない。しかるに、すき焼きとなると、これはもう食べたことのない人なんているとも思えない。

本書の著者は尋常ではなくすき焼きが好きらしく、その天下の名品を探訪し肉迫し記録し描写すること、常軌を逸して鬼気迫るものがある。それゆえ、この本を読むと、日本各地に伝わるすき焼きのあれこれが如実にわかって、さっそく試してみたいという誘惑を感じさせる。

私なども、人後に落ちない食いしん坊であるが、たとえば、松阪牛も近江牛も神戸牛も、みなその生まれは但馬なのだと本書で知って、へへえとびっくりした。そうやって、牛肉の歴史や、現状や、未来までも篤実に究明したところは大いにためになるが、それでもやっぱりこの本の「味わい」は、著者の食いしん坊ぶりが遺憾なく発揮されている、食べ歩きの記録のところである。

ようやく鍋が熱くなって、肉がジュウジュウいいはじめ、いい具合にうねりはじめる。醤油と砂糖が入り混じり、いかにもすき焼きのたれといった感じ。そのたれが肉の表面にすすすっと広がっていく。

ああ、うまそうだ。万事はこの調子で、読み終わるころには、さっそく牛肉とネギを買いに走ろうかという気合いになる。

まさに食いしん坊の魂躍如たる一冊。味がそのまま文字に凝縮しているという珍しい新書本である。



すき焼き通 / 向笠 千恵子
すき焼き通
  • 著者:向笠 千恵子
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(256ページ)
  • 発売日:2008-10-01
  • ISBN-10:4582854397
  • ISBN-13:978-4582854398
内容紹介:
明治の文明開化で始まった牛鍋は、新しい日本のごちそう、すき焼きとして広まった。その味を全国の老舗すき焼き店にたずね、手塩にかけて育てられた名牛の肉から、個性的な調理法と食材、食べ方の流儀まで、日本人に最も愛され、幸福感あふれる料理、すき焼きの食文化とその美味の秘密を熱く語る。

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