書評

『ライク・ア・ローリングストーン: 俳句少年漂流記』(岩波書店)

  • 2024/10/05
ライク・ア・ローリングストーン: 俳句少年漂流記 / 今井 聖
ライク・ア・ローリングストーン: 俳句少年漂流記
  • 著者:今井 聖
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(240ページ)
  • 発売日:2009-01-27
  • ISBN-10:4000024256
  • ISBN-13:978-4000024259
内容紹介:
中学のときに学習雑誌に投稿して入選し,自分を天才だと思った少年は俳句創作に突き進んだ.学園紛争の薫陶を受けた高校時代,「造反有理」に強く惹かれるも勉強せず2浪して大学へ.俳句は楸邨に師事する.定番に対する反発を抱えて彷徨する70年代の若き日々.刹那的な生活を描くも,人間への共感あふれる抱腹絶倒の青春記.

懐かしくも惨憺たる・・・

俳人今井聖さんの、これは自伝小説であるが、ほとんど現実そのままなのであろうと想像される。

私自身は、今井さんと同世代で、その青春時代を共有してきたところだから、一読、なつかしくも「痛い」ような思いを味わった。

青春は、いつも悔恨に満ちたものだが、それにしても、この痛切なまでにやぶれかぶれの青春はどうであろう。鳥取県家畜試験場の獣医で、息子に期待するところ大きく、抑圧的であった父親への反発から、ただ「俳句」という武器だけを手にして故郷と決別していく一人の少年の独立の物語が、ここに物語られている。『ライク・ア・ローリングストーン』は「転石苔むさず」という英語の諺だが、それよりも、フォークロックの旗手ボブ・ディランの歌の題名として心に刻まれている。

明治学院大学に入った「僕」は、偶然のようにして、いわゆる全共闘運動に巻き込まれていくのだが、その壮絶な運動のなかにも、結局どこか没入しきれない「僕」がいる。

それもそのはず、心の奥に「俳句」という文学の魔物を飼っているのだから、殺風景な政治運動とはどこかで決別しなくてはならないのが彼の運命であったに違いない。

そして師加藤楸邨との出会い。それもまた、微妙な懸隔を覚えて、彼は独立の俳人となっていくのだが・・・。随所に印象的な俳句を織り込みながら、本書は、世を早くした母の最期を以て締めくくられる。時に饒舌に、時に理屈っぽく、時に抱腹絶倒的に青春を辿ってきたこの本は、その巻軸に至ってしみじみとした哀感を湛えつつ終る。

抱かれし後流燈となりゆけり

享年五十五。母が煙になった。
ライク・ア・ローリングストーン: 俳句少年漂流記 / 今井 聖
ライク・ア・ローリングストーン: 俳句少年漂流記
  • 著者:今井 聖
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(240ページ)
  • 発売日:2009-01-27
  • ISBN-10:4000024256
  • ISBN-13:978-4000024259
内容紹介:
中学のときに学習雑誌に投稿して入選し,自分を天才だと思った少年は俳句創作に突き進んだ.学園紛争の薫陶を受けた高校時代,「造反有理」に強く惹かれるも勉強せず2浪して大学へ.俳句は楸邨に師事する.定番に対する反発を抱えて彷徨する70年代の若き日々.刹那的な生活を描くも,人間への共感あふれる抱腹絶倒の青春記.

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

スミセイベストブック

スミセイベストブック 2010年9月号

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
林 望の書評/解説/選評
ページトップへ