こたびの大震災については、さまざまの人がさまざまの本を書いているなかで、鈴木秀子さんの新著『いのちの絆 際震災を生きる』は、ほんとうに好かった(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆年は2011年)。
病気とか死とか、のっぴきならないことに直面した人たちが、どうやってそれと対峙し、応戦し、そしてそこに生きる意味を見出したか、シスターとして、また、心理セラピストとして、多くの現実に親しく接してきた筆者が、このたびの東日本大震災の惨状に対して、しっかりと向き合ったのが、この一冊である。
全五章のうち、一・二章は東日本大震災、三・四章は阪神淡路大震災の現場で接した多くの現実と教訓、そして第五章はその全体のまとめと考察と言ったらいいだろうか。
いずれも机上の空論でなくて、みずから実際に足を運んで現実に直面しての知見を書いているところに、非常な力がある。
震災直後の闇のなかで寒さに震えていた人のところへ、なけなしの灯油を持ってきてくれた隣人の話、迫り来る津波のなかで、父親の位牌を取りに行って逃げ遅れた十歳の少年の話、自らも被災しながら、不眠不休で高速道路の復旧に尽瘁した人の話等々、この本を読んでいると、随所に人間というものは心の美しいものだなあと、ふと感動して涙を禁じ得ぬところが出てくる。
そういうさまざまの苦難や経験のなかから、それを未来につなげていくにはどう考えたらいいか、鈴木さんは、諄々と説かれる。
そこではキリスト教とか仏教とか、そういう枠を超えて、人の心の「善さ・美しさ」が胸に迫ってくるのである。読後感の爽やかな好著、週末の読書に最適の一冊である。