医師のホンネに耳を傾ける
PPK願望という言葉をご存じだろうか。ピンピンコロリ願望、つまり昔風にいえば「ぽっくり願望」と同じことの謂いである。しかし、「PPKは現実には、きわめて難しい」と、本書の著者は釘を刺す。実際に、ある日突然親が死んでいたら、それを冷静に受け止められる家族などは殆どいまい。ましてや、それが病院で起ったとしたら、医者は訴えられる危険すらあって、「PPKはけっきょく、自宅でも病院でも『周囲をあわてさせる幕切れ』でしかないのだ」と著者は言う。
なるほどなあ。素人の俗論では問題のないように見えても、医療の現場では大問題ということがあり、本書は、その種々の実例を挙げて、テレビや漫画などの「スーパー名医もの」をもどきながら、明快に切り込んでいく。その筆致はまさに快刀乱麻を断つが如くである。
私たちは、現象面だけを見て、患者のたらい回しはケシカラン、などと言いがちだが、現実には、救急患者の最適切な治療先を探しているうちに患者が急死したというような例もあったり、簡単にひと括りにはできないところもあるのである。
そうした現実を、まさに赤裸々に描き出しながら、医者だって生身の人間だ、絵空事の「スーパー名医」のようなわけにいくものか、と、これは決して開き直りではなくて、心の叫びさながらの、已むに已まれぬ熱情を込めて訴えているのがこの本なのだ。医療従事者、官僚、政治家、そして医療の恩恵を受けている私たち、みんな一度はこういう本を読んで、よく現実を知るがいいのである。著者の土佐人らしい熱情と正義感は、ちょっとあの龍馬を彷彿とさせるところすら感じられる。