今からでも遅くない
『賢い芸人が焼き肉屋を始める理由』を読んだ。これがとても良い本であった。世界的な経済アナリスト岡本和久さんの新著だが、「どのようにお金とつきあったら人間は幸福になれるのか」がこの本の主題である。その立脚点は、ひとことでいえば「投資のモラル」だ。せわしなく売り買いを交錯させて利ざやを稼いでも人は幸福にはなれぬ。そうじゃなくて、真面目で有望な企業に、その運転資金を少しずつでも託して、長い長い目でその企業たちを見守り育て、二十年三十年先に、企業も栄え、自分もリーズナブルなリターンを得る。それが本当の資本主義のモラルだというのである。「個人の資産形成は、あくまで働いてお金を稼ぐことによって行うのが本分であって、投資はそれを支えるものにすぎません」と著者は言う。そして、よりよい人生のためには「足るを知るという発想が必要になってくる」と江戸時代の心学者にも近い一見古風な哲学を鼓吹するのだが、それこそは世界を荒らし回っている資本原理主義との対極に立つ穏健で共栄的な日本的資本主義をめざそうとする思想であって、古いようで実はそれが一番新しい考えであるに違いない。で、著者は、六つの「富(ふ)」というのを提唱する。
1,フィナンシャル・アセット(金融資産)
2,フィットネス(健康)
3,ファミリー(家族)
4,フレンド(友人)
5,ファン(趣味)
6,フィランソロピー(社会貢献)
金を儲けるのが人生ではなくて、幸福を富ましめるのこそ人生、今からでも遅くはない、と背中を押された気がした。