書評

『お金はサルを進化させたか よき人生のための日常経済学』(日経BP社)

  • 2017/09/28
お金はサルを進化させたか よき人生のための日常経済学 / 野口 真人
お金はサルを進化させたか よき人生のための日常経済学
  • 著者:野口 真人
  • 出版社:日経BP社
  • 装丁:単行本(247ページ)
  • 発売日:2014-11-14
  • ISBN-10:4822277585
  • ISBN-13:978-4822277581
内容紹介:
誰にでも起こる身の回りの出来事を取り上げ、その裏に隠れているファイナンスやエコノミクスの基本用語と理論を分かりやすく解説。

日常生活から教えるお金の理論の基礎概念

著者は複数の金融機関での経験の後に、企業価値評価に特化したコンサルティング会社を創業したファイナンスのプロ。プロフィールを一見すると、投資の指南書やファイナンスの分析手法を伝授する実用書をイメージするが、本書は趣を異にする。ファイナンス理論の最も基礎となる、それゆえ重要な概念を「読者の腑(ふ)に落ちる」ように説明する。そこに本書の目的がある。

お金の理論の基礎概念をごく日常の生活や行動の文脈で説明する。この説明が抜群にうまい。だから理解が腹落ちする。例えば、第1章では世界一の投資家とも言われるウォーレン・バフェットの意思決定を家庭の主婦の買い物や商社に勤める30代女性の日常の行動と比較して、経済的な意思決定が共通の原理原則でなされていることを説明する。そこから「価格」と「価値」の違い、「消費」と「投資」と「投機」の区別、キャッシュフロー、不確実性と確率、リスクとリターンなど、基礎概念が自然な流れの中で理解できる。

ファイナンスの入門書はあまたあるが、無味乾燥な数字の例で説明するから分かったようで分からない話が多い。これに対して「日常経済学」を標榜(ひょうぼう)する本書の説明は、ごく普通の生活者に腹落ちする。ひと通り分かったつもりになっている読者にとっても改めてファイナンスの概念の本質を理解する助けになるだろう。

本書は実用性においても優れている。従来のファイナンスの解説書は投資や財務分析をする人でなければ活用できないものがほとんどだった。しかし本書は、仕事としてファイナンスに関わることが全くない人にこそ価値がある。理解が腹落ちするから現実の生活や仕事で十全に応用できる。日々の生活でのお金の使い方をお金の理論に当てはめて振り返れば、それまでの自分のお金に対する考え方にあった無意識の癖やゆがみを知らされるはずだ。

なんてことはない日常生活の断片からファイナンスの概念を理解し、その概念の意味合いを日常の経済行動に当てはめて考えてみる。こうしたお金に関わる思考の往復運動をしているうちに、しみじみと気づかされるのが「お金は手段に過ぎない」という当たり前の真実である。ここに本書の裏テーマがある。「お金は便利な道具であると同時に危険なものであり、取り扱いに注意しなければならない」と著者は強調する。とかくお金に振り回されがちな世の中にあって、お金に対するぶれない構えを与えてくれる一冊としてお薦めする。
お金はサルを進化させたか よき人生のための日常経済学 / 野口 真人
お金はサルを進化させたか よき人生のための日常経済学
  • 著者:野口 真人
  • 出版社:日経BP社
  • 装丁:単行本(247ページ)
  • 発売日:2014-11-14
  • ISBN-10:4822277585
  • ISBN-13:978-4822277581
内容紹介:
誰にでも起こる身の回りの出来事を取り上げ、その裏に隠れているファイナンスやエコノミクスの基本用語と理論を分かりやすく解説。

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初出メディア

週刊エコノミスト

週刊エコノミスト 2015年3月10日

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