書評

『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社)

  • 2017/12/05
あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門 / 野口 真人
あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門
  • 著者:野口 真人
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(280ページ)
  • 発売日:2016-04-22
  • ISBN:4478066043

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ファイナンス思考の本質 秀逸な対比で浮き彫り

二流の人の「分かりやすい説明」は要点の箇条書きに明け暮れて、肝心の論理の本質部分に踏み込まない。表面的には分かりやすいように見えるが、実のところ表層をなでているだけのことが多い。

本書はファイナンスという複雑な思考の本質(だけ)を誰にでも分かるように説明する。いくつかの著作を読んで、著者の優れた解説能力を知ってはいたが、それにしても本書には恐れ入った。

ノーベル経済学賞を受賞した四つの代表的なファイナンス理論(MM理論、現代ポートフォリオ理論、CAPM、オプション価格評価モデル)が分かる、という出版社の売り文句の通り、これらの理論の説明は確かに分かりやすい。

しかし、著者が本領を発揮するのは、理論の中身よりもその前提の部分だ。ファイナンスに固有の(それゆえ相当に癖がある)思考様式の本質、ここを押さえておかなければ理論の理解もまた意味を持たない。僕もそれなりに分かっているつもりだったが、本書を読んで改めて気づくことが多かった。

著者の説明が秀逸な最大の理由は、Xが何かを説明するときに、一見似ているけれども本質的には異なるYを持ち出すのがうまいところにある。XとYを対置し、「YでないのがXだ」だというアプローチでXの本質を浮き彫りにする。

その白眉(はくび)が本書の2章にあるファイナンス(X)と会計(Y)を対比した議論だ。この2つは一見兄弟というか、ご近所同士のような関係にあるように見えるが、思考の本質においては真逆を向いている。

会計的思考でもっとも価値があるのは現金だ。だから流動性比率は高いほうがいい。ところが、ファイナンス思考では現金はもっとも価値が低い資産となる。

こうした視点の設定を通じて、価格と価値の違い、キャッシュとキャッシュフローの違いといったファイナンスの核心にある思考が次々に明らかになる。

ファイナンスは価格と価値を峻別(しゅんべつ)する。現時点での価格ではなく、将来に渡ってお金を生み出す価値こそが選択基準になる。しかし、最後のところでは全ての価値を価格に換算してしまうファイナンスは根本的な「矛盾」を抱えている。これは人間が本来的に抱える矛盾でもある。

本書は単なる解説書ではない。ファイナンスという思考の「底の浅さの奥深さ」を見据えることによって、人と人の世の本質を垣間見せてくれる。快著にして怪著である。
あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門 / 野口 真人
あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門
  • 著者:野口 真人
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(280ページ)
  • 発売日:2016-04-22
  • ISBN:4478066043

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初出メディア

週刊エコノミスト

週刊エコノミスト 2016年8月30日

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