書評

『MMT現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)

  • 2019/11/17
MMT現代貨幣理論入門 / L・ランダル・レイ
MMT現代貨幣理論入門
  • 著者:L・ランダル・レイ
  • 翻訳:島倉 原,鈴木 正徳
  • 監修:島倉 原
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(536ページ)
  • 発売日:2019-08-30
  • ISBN:4492654887
内容紹介:
全米大論争、国会で議論白熱の「MMTのバイブル」待望の邦訳!いち早く日本に紹介した中野剛志氏と、「反緊縮」の松尾匡氏のW解説

「租税が貨幣を動かす」という主張

このところ経済学関係ではもっとも話題になった、というか毀誉褒貶にさらされた理論、MMT(Modern Money Theory)。その概要を入門的にまとめた2012年初版の改訂版が出版された。

MMTは「財政は赤字が常態であって均衡を目標にする必要はない、失業が蔓延しているならどんどん財政支出すべき」と唱える。税収を財政支出の上限とすべしという考えは捨てよ、というわけだ。感想を尋ねられた黒田東彦日銀総裁は「必ず高インフレをもたらす」とこき下ろし、麻生太郎財務相は「知らないわけではないが、理論というべきかどうかも分からない」と不快感を露わにした。両者の発言からは、腹立たしくも無視できない気配が伝わってくる。

財政支出を拡張する「大きな政府」論は、一方では公共事業で景気を浮揚させようとする道路族の政治家やゼネコン、他方では政府支出を拡大して弱者や貧困層の救済に回せという左派から支持されてきた。けれども前者は1990年代に景気浮揚の効果をもたらさなかったと小泉構造改革で総括され、後者は財政赤字の累積で無理と一蹴されてきた。ところが「小さな政府」論にもグローバル金融危機や格差といった弱点が目立つようになり、そこでJ・M・ケインズやH・ミンスキーの理論をリニューアルしたMMTが脚光を浴びたのだ。

本書は、その背景をなす考え方として国家貨幣制度にまで遡(さかのぼ)り、説明を始めている。貨幣とは主権を持つ国家が決めた計算単位にすぎず、商品や金ではない。また国民には、その通貨によって納税義務が課される。ここで政府が先に民間から何かを購入すると、民間はその貨幣を受け容れ、流通させるという。それは何故かというと、政府が租税支払いの際にこの紙幣を受け取ると約束しているからだ、というのだ。著者はこれを、「租税が貨幣を動かす」と表現する。

貨幣経済はこの順で動いているのだから、まず民間から租税を集めて予算とし、その範囲内で財政支出しなければならないとか、予算を超える赤字財政はインフレをもたらすという通説は、逆立ちした妄想でしかないことになる。

MMTはその上でA・ラーナーの機能的財政論にのっとり、総所得が低すぎるときにはインフレにならない範囲で為替レートや民間活動にも影響を与え過ぎないよう配慮しつつ、完全雇用を目標に、政府支出を増やすべきだと主張する。財政支出の内容としては、働く用意と意欲がある人を公共的な仕事に最低賃金で雇い入れる「就業保証プログラム」を推奨している。

一般的なマクロ経済学とは正反対の結論を持つこの主張をどう評価すべきかだが、評者はほぼ同意している。ただなぜ財政支出から出発するのかについては、説明の力点が異なる。モノで租税を受け容れた(例。米を年貢とした)中世から脱し、貨幣で売買が行われる現代では、貨幣で商品は必ず買えるが、商品が売れて貨幣が得られるか否かは不確実である。そこで(日銀がいくら金融緩和しても)貨幣を貯め込むだけで商品を買わないと、不況が定着してしまう。ここで政府には、率先して貨幣で財政支出し、国民に租税としてその貨幣を還流させて、強制的な貨幣循環を生み出す責務がある。著者が言う「租税が貨幣を動かす」とはそのことだ。

ただし、どんな政府が課する納税義務にも国民が応じるかといえば、疑問は残る。財政支出の内容にメリットを見出さない人や企業は海外に脱出するかもしれない。さらに熱い議論を導くこと必至の一冊である。
MMT現代貨幣理論入門 / L・ランダル・レイ
MMT現代貨幣理論入門
  • 著者:L・ランダル・レイ
  • 翻訳:島倉 原,鈴木 正徳
  • 監修:島倉 原
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(536ページ)
  • 発売日:2019-08-30
  • ISBN:4492654887
内容紹介:
全米大論争、国会で議論白熱の「MMTのバイブル」待望の邦訳!いち早く日本に紹介した中野剛志氏と、「反緊縮」の松尾匡氏のW解説

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2019年10月13日

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