書評
『資本主義が嫌いな人のための経済学』(エヌティティ出版)
右派にも左派にも変なところがある
買い物が好きだ。お金はもっと好きだ。でも、資本主義は大嫌いだ。だから書店でこの本を見つけたとき、「オレのための本だ!」と思った。ジョセフ・ヒース『資本主義が嫌いな人のための経済学』である。著者は経済学者ではない。哲学者である。経済学と哲学は似ている。どちらも過去に起きたことや目の前で起きていることを解釈するのが得意だ。しかも経済学者が100人いれば、解釈も100通り。未来の予測はできないし、予測してもたいていは外れる。だから経済学がほんとうに役に立っているかどうかはわからない。役に立つからエラいというものでもないけど。
この本はすごくおもしろい。文章がウィットに富んでいるのだ。たとえばプロローグは映画「ブレードランナー」の話から始まる。あの映画がショッキングだったのは、未来にも「広告」があると描いていたから。つまり未来になっても資本主義が生きていることを示唆していたからだ、という。なるほど、と思わず引き込まれる。
構成も見事だ。「右派の謬見」と「左派の誤信」という2部にわかれている。前者は「保守、リバタリアン」で、後者は「革新、リベラル」。ぼく流に言い換えると、規制をなくして市場にまかせろ派と規制で市場の暴走を防げ派だ。どちらにも間違いや変なところがあるよ、というのが著者の主張。
たとえば前者であれば「国際競争力」。原発再稼働の口実として産業界がよく主張しますね。でも著者は「経済のすべてに競争力がない状態などありえない」という。「たとえあるとしても、たいしたことではない。なぜなら基本的に貿易は競争関係ではないから」。
あるいは後者では「公正価格」や「同一賃金」、「平等」という左派お得意の考え方の間違いを指摘する。
資本主義、というか世の中とお金の関係は複雑だ。一発ですべてが解決する方法があるというのは幻想だ。少しずつパッチを当てるように修繕を続けるしかない。
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