書評
『提言通商摩擦: 法と経済の対話』(エヌティティ出版)
「保護貿易」の被害者は誰か
通商摩擦とはいったい何か。すぐれて現代的なこの問いに、本書は“柔”の伊藤(経済学)と“剛”の石黒(法学)とが、クロス・コメント方式とでも言うべき野心的な方法を通して、真正面から答えようとしたものである。ガット、保護貿易、アンチ・ダンピング、サービス貿易、日米構造協議、知的財産権と、通商摩擦の問題は、どれ一つとっても厄介で複雑な様相を呈している。これらに対して、気鋭の論客二人は各々の学問的立場をはっきりさせた上で、きわめて明快に説明しようと試みる。
たとえばまずガットだ。石黒は、ガットがいかにとらえどころがないかを説いてやまない。いわくガットには運営の組織体がない。いわくガットを条約として批准したのはハイチ一国だけ。いわくガットにおけるECの位置づけの不明確さ等々。その上で日本のなあなあ的問題処理と親近性をもつ清濁あわせのむ妥協的なプラグマティックな問題処理から、ガットがリーガリスティックな問題処理へと大きく転換していく模様を指摘する。とりわけ新ガットと言うべきMTO(多角的貿易機関)構想を、「屈折した制度改革」と称した石黒のセンスは、国際機関の苦悩と息づかいを彷彿(ほうふつ)とさせてみごとである。
次いでアンチ・ダンピングと輸出自主規制について、伊藤は誰が一番の被害者であるかを鋭く追及する。ダンピング提訴が輸出自主規制という安易な解決に終わると、提訴国の消費者が最も被害を受けるのだ。伊藤のこの視点は日米構造協議の大店法問題にも貫かれ、大店法による出店規制は日本の消費者のためにならないと結論づける。
二人とも保護貿易的規制の問題点を、国際的な視野から論争的にとらえようとしており好感がもてる。しかし結果として、時に二人が戦闘的ナショナリストに見えてくるのは、やはり国際化のパラドクスであろうか。
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