注目浴びる実務先行の「貢献」
日本外交のあり方が根底から問い直される時期にきた。これまでのように特定の外交問題に遭遇するたびに、「日本外交の転換」が声高に叫ばれる状況とは決定的に趣を異にする。個々の問題の短期的ゼロサムゲーム的解決のレベルをこえて、複眼的に国際政治の流れを把握した上で、長期多角決裁の必要性に迫られる事態が、深くかつ静かに日本外交の転換を促しているのだ。著者は中堅外交官としての外交の現場感覚を大事にしながら、豊富な外交事例を随所に鏤めつつ、論理的に日本外交のあり方を浮き彫りにしていく。「価値観の相違の認識」を前提に、「情報収集と分析」「政策決定過程」「外交交渉」と、一連の外交過程をわかりやすく説明する。
中国問題におけるニクソン・ショックと繊維問題との関連の指摘に始まり、日米戦争を決定的にした石油輸出禁止に対するイギリスの工作に及ぶ、見えにくい「他国の利益」の存在。シーレーン構想やソマリア問題、それにトルーマン・ドクトリンが示す「政策遂行用分析」の多義的インプリケーション。オイル・ショックやベルリンの壁の崩壊を前にしての、情報活動の「ジグソー・パズル」的解を求める難しさ。理念や哲学がないとされた日本外交の中で、実務が理念に先行した援助政策が、今やかえって国際的に注目されているという「国際貢献」の実状。
最後に著者の「外務省離れ」の外交に対する論争的主張を紹介しておこう。著者は、議会・他省庁・企業・マスコミによる外交への介入をデモクラシーの必然とみる。にもかかわらず、それは日本外交の不安定さと国益上のマイナスを生ずる恐れが充分にあると考える。それを避けるためには、各々の分野のプロによるゼロサム的解決の主張を退けねばならない。かくて「特定問題での譲歩が、結局は国益にかなう」とする組織なり人なりを生み出しうるか、それが今後の外務省のレーゾン・デートルを賭けた戦いに違いない。