書評
『地球環境問題とは何か』(岩波書店)
個人レベルに還元して効果
地球環境問題・電気通信問題・医療福祉問題の三つの問題領域は、二十一世紀を迎える先進国の重要な政策課題となろう。いずれも問題の規模が一国に止まらぬほどマクロの広がりを持ちながら、最終的な政策効果は確実に一人一人の人間の生活に及んでいくという意味でのミクロの影響力に絶大なものがある。著者はこのうち地球環境問題に対して、自然科学と国際政治との出会いというマクロ的な観点から切りこんでみせる。一九八〇年代後半の冷戦の終焉が、地球環境問題を国際政治のメインテーマに浮上させた経緯を、研究者が相次いで発表した論文や、環境を議題とする国際会議での政治家の発言などから、鮮やかに証明していく。
膨大なしかしすべて公開された誰でもがアクセス可能な資料群の中を泳ぎながら、著者の鋭い読みが示される。地球温暖化論がナチスの人種理論やルイセンコ理論とはまったく異なる相貌を現すことを、九二年の「気候変動枠組み条約」に見出すのだ。著者はこれを「自然科学の専門概念と国際条約との、感動的なまでの融合」と評する。次いで地球サミットの意義を地球環境の危機や南北格差についての率直な認識論的転換に求め、同時にエネルギー消費型のアメリカ的価値の衰退を説く。
かくて著者の指摘は、自由貿易と地球環境保全とが敵対的なのか両立しうるのかという、ガット体制の根源的問いかけにまで及ぶ。それにしても霧の彼方にあって一向に見えてこないのは、日本の姿だ。だがこれまでのところ、ODAを通じての資金援助などすべて受け身であった日本の姿勢に対して、著者は意外なほど理解を示す。もっとも二十一世紀へむけて、日本政治を著者の言う「構造化されたパターナリズム」から解放しない限り、地球環境問題への能動的取り組みは絶望的であろう。
その意味で地球環境問題をミクロの個人レベルに還元すると、公的価値への献身や国家・権力への積極的対応を促すとする結論は、時宜を得たものと言ってよい。