書評

『水の環境戦略』(岩波書店)

  • 2018/12/01
水の環境戦略 / 中西 準子
水の環境戦略
  • 著者:中西 準子
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(226ページ)
  • 発売日:1994-02-21
  • ISBN:4004303249
現在、環境問題にまるで無関心、という人は少ないだろう。けれど、いきなり「地球」という規模で語られる多くの話に、なかなかピンとこないなあと感じる人もまた、多いことと思う。

本書は、私たちの暮らしにもっとも身近な「水」を通して、環境問題を理解し、考える糸口を与えてくれる。

発展途上国と先進国とでは、環境問題への対処のしかたが違ってしかるべきだ、ということはよく耳にする。これまで、さんざん環境を破壊して快適な生活を手に入れてきた先進国の人間が、これから発展しようとしている人々に向かって「地球のために我慢しろ」とは、言えない。ただし著者は、発展途上国といえども、生活向上のために環境を犠牲にすることには制限があり、先進国といえども、環境保全のために無限の資金は投下できない――という柔軟で現実的な姿勢を強調する。そこが、本書の特徴の一つであり、このことが実によくわかる象徴的なグラフが、冒頭で示される。

この、柔軟で現実的な姿勢は、環境問題における「一定のリスクの許容」という結論を導きだす。水について言えば、やや汚れてはいても、そういった水を使うことによって水を循環させ、量と質との折り合いをつけよう、というのだ。

右(ALL REVIEWS事務局注:上)のようにいきなり結論を紹介してしまうと、唐突に思われるかもしれない。が、生活用水、農業用水、工業用水、下水道など、さまざまな観点から具体的な数字と事実が示され、「これなら」と納得できる。

首都圏の渇水騒動は、実は行政のしくみに問題があることや、農薬の毒性試験にまつわること、あるいは水道水質基準の問題点(これを読むと、ちょっと水道の水を飲むのがためらわれる)など、お役所のかたには耳の痛いような内容も、盛りだくさんだ。が、単なる指摘や批判に終わるのではなく、著者なりの処方箋が示される。それらのすべてが完壁なものではもちろんなく、だからこそ、これからの研究の重要さを知らされる。

と同時に、政治の重要さをあらためて思った。直接自然に働きかけるのでなくても、人間の社会のしくみを変えるだけで、こんなに自然を救えるのだ、という例がたくさんあることを知って。

リスクとベネフィット(便益)の取引や判断について、行政に任せてしまうのでなく、市民が議論すべきだという主張も、大事なことだと思った。

【この書評が収録されている書籍】
本をよむ日曜日 / 俵 万智
本をよむ日曜日
  • 著者:俵 万智
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(205ページ)
  • ISBN:4309009719
内容紹介:
きょうの予定…一日読書。切ない本、わくわくする本、やさしい気持になれる本 実は楽しい古典から、話題のベストセラーまで「ねぇ、これおもしろかったから読んでみて。」。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

水の環境戦略 / 中西 準子
水の環境戦略
  • 著者:中西 準子
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(226ページ)
  • 発売日:1994-02-21
  • ISBN:4004303249

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 1994年03月20日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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