生物の絶滅進行 世界中で今何が
週1回、虫好きが集まって、なんとなく話をする。そこの話題の半分以上は、虫がいなくなった、という嘆きである。この本が出たので、日本だけではないらしいよと、とりあえずそこで皆さんに紹介した。虫なんか、いないほうがいい。そう思う人も多いと思う。実際にハエはあまり見なくなった。若者はハエ捕り紙がブラ下がっている風景なんて、見た覚えもないであろう。高速道路を走った後の車のウインドウ・スクリーンが潰れた虫で汚れて、それを掃除をすることも減ったはずである。新幹線の最前方の窓は見たことがないが、同じであろう。
著者はイギリスの昆虫学者だが、世界中の状況について、調べた結果をじつに丁寧に報告する。アメリカにはオオカバマダラという鳥のように渡りをするチョウがいて、冬は南部の温かい地域で集団になって越冬するので、有名である。大きなチョウなので、数えやすい。「カリフォルニアで越冬する西側のオオカバマダラは一九九七年には一二〇万匹ほどいたが、二〇一八年と二〇一九年には三万匹もいなかった」
もちろんこういう所見をいくら積み重ねても、いわゆる科学的なエビデンスにはならない。しかし、さまざまな分野で、生物の絶滅が進行しているという主張は多い。ヒトという生物もおそらく例外ではない。いわゆる先進国はどこも少子化で、このままの状況が仮に続くとすればいずれの国民も絶滅ということになろう。
虫が減るというと、もちろんなぜか、原因は、という疑問が生じる。もっとも犯人に挙げられやすいのは農薬、化学肥料、殺虫剤、除草剤である。それ以前に地球上に存在しなかった化学物質を地表にばらまく。その結果は決して完全には読めない。コロナ・ワクチンに関する議論をお読みになった人はお分かりであろう。
「コロナにかからなかった」
「ワクチンのおかげだな」
「コロナにかかった」
「重症化しなかったでしょう。ワクチンのおかげです」
「重症化した」
「基礎疾患があっただろう」
「死んだ」
「合併症ですな」
以上は中国の小話だという。農薬の害を説いても、似たような問答に巻き込まれる可能性が高い。ワクチンを農薬に置き換えてお考えください。
人体ですら「小宇宙」といわれるくらいの複雑な自然であって、それにある特定の化学物質を投与するとなにが起こるか、完全には予測できない。
本書は四百ページを超える大部の書物だから、全部を読破しようという人は少ないと思う。しかし、世界中の虫に何が起こっているのか、その事実を知りたいと思う人には良い参考書であろう。
著者は最終章の第21章「みんなで行動する」で、「じゃあ、どうすればいいのか」という対策を列挙している。とりあえずはここを読んで、できることを実行していただくのが良策だと思う。
それで問題が解決すると、私には思えない。根本問題は、自然は理性的にコントロールできるはずだという、もともとが欧米由来の暗黙の前提であろう。ヒトはそれほど利口でも、理性的でもない。