どのようにして、基礎体力を身につけてきたのか。
「人脈」の育て方、「資産」の考え方、「お金」の使い方など、著者が仕事をする上で学んできたこと、確かめてきたことが詰まっていて、ビジネスマンとしての松浦弥太郎の考え方がよくわかる一冊です。
『人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方』より、「はじめに」を特別公開します。
お金と時間を意識して使うことで、人生が豊かになる。豊かさを増やすシンプルな原理原則とは
「体力のある者が勝つ」。ある日、僕のビジネスにおける師が教えてくれた言葉です。どんなにアイデアがあっても、どんなに気力があっても、体力のない弱い者は、ビジネスの世界では勝つことができない。
だから、まずはしっかりと体力をつけろ。そう諭してくれました。
ここで言う体力とは、いわゆる身体的なものではありません。その本質は、知識という底力。人と人とのネットワークと信用、ガソリンとも言える、いくばくかのお金です。
ビジネスとは、チャレンジの連続です。七転び八起きとも言えるでしょう。どれだけそのチャレンジに没頭できるのか。とはいえ、飲まず食わずというわけにはいきません。
価値があり、大きな取り組みであればあるほど、結果が出るには時間がかかります。結果というリターンはいわばお金ですが、そのお金が入ってくるのはずっと先です。それまで待てるかどうかが肝心なのです。
資本という体力がないまま始めてしまった者は、途中で待ちきれず、あきらめるしかないのです。そういうケースは実に多いのです。
みんな、頑張ればなんとかなると思い込んでいますが、現実はそんなに甘くはないのです。
やります。やれます。頑張ります。大丈夫です。と口にするのは簡単です。
しかし、それを証明せよと言われたら、どうやって証明しますか? その証明こそが、先にも書いた、知識という底力。人と人とのネットワークと信用、ガソリンとも言える、いくばくかのお金です。
「じっくりと待てる強さを持て」。それが勝つための秘訣。そのために学ぶべきことを学べ。師が僕に伝えたかったのはこのことでした。
待てないということは、常に急いでいるということ。だからこそ、何か問題が起きた時、すぐに文句や愚痴を口にするし、何かあるたびに大騒ぎする。それが原因で頓挫する。
待てる強さがあれば、慌てることもなく、起きる問題すらもプロセスのひとつだと許容でき、冷静な判断ができるのです。余裕があるからです。
スポーツの世界でも同じですね。トップを狙うのであれば、まずはしっかりと基礎体力を手にしてからでないと、技術の習得もできませんし、決して競争には勝てません。
いざって時こそ、基礎体力がものを言うのですから。
例えば、作物を育てる。人を育てる。人間関係を育てる。病気の治療や問題解決など、待つことが大切なことは、日常生活でもたくさんあります。
ビジネスにおいても「待つ」ことの本質は、それと同じです。それらを待たずに急いだらどうなりますか? 間違いなく失敗するのです。
例えば、一カ月で一〇キロ減量できる方法など、本来、一年かけるべきことを、待たずに得る成果には、必ず大きなリスクがあり、決して健全ではありません。
ですから、「待つ」ということは、あらゆることの基本中の基本。大切な姿勢です。心に刻み込むべきことです。待てない人は、まず成功しないのです。
価値のあることであればあるほど、価値のある学びであればあるほど、しっかりと時間がかかります。そして、その時間に比例するように、大きな成果として返ってくる。
しかし、それはずっとずっと先のこと。
何度も言いますが、肝に銘じるべきは、「決して成果はすぐに得られない」ということです。意外とこれをわかっている人が少ない。みんな急ぐのです。待てないのです。
実現や成果、リターンまで、いかに辛抱強く待てるか? ということです。
大きな夢を叶えるために、お金や時間、自分の持っているものを投資して待つ。しかし、夢が叶うのはずっとずっと先。とにかく時間がかかる。だからこそ、待つための強さ、待つための体力が必要です。
体力にも段階があります。最初は一〇という体力かもしれません。その体力でできる
ことをやり遂げ、次は五〇という体力で挑む。そして、次は……と繰り返していけばいいのです。
本書では、僕がどのようにして基礎体力をつけてきたのか。どのようにして待つための強さを身につけてきたのか。そして、ビジネスにおいて、体力と同じくらいに大切な情報を、どのようにして手にしてきたのか(情報とは経験である)。
そこで気づいたことや学んだこと、確かめたことを自分にとっての備忘録のように書きました。
最後に、僕の師は「待つために、他のことをしているんだ……」とも言いました。さて、みなさんは、この言葉の意味をどのように捉えますか? 本書を読みながら一緒に考えていければと思います。
[書き手]松浦弥太郎