書評

『待つこと、忘れること?』(平凡社)

  • 2020/01/05
待つこと、忘れること? / 金井 美恵子
待つこと、忘れること?
  • 著者:金井 美恵子
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(268ページ)
  • 発売日:2002-10-01
  • ISBN-10:4582831176
  • ISBN-13:978-4582831177
内容紹介:
冬の紅玉、夏の白熊。ギネスビールで猫見酒?目白・カナイ家の食卓を彩る、おいしい料理の数々から、めくるめく食の記憶の海へ―。画家の姉と小説家の妹と、愛猫トラーが腕を振るった44皿、辛口あり、甘口ありのスパイシー・エッセイ集。
あの金井美恵子の食にまつわるエッセイ。というだけで読む人は読むのだし、“あの”の意味もわからない人は『ビストロSMAP』でも買って読めばいいと思う今日この頃。(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2003年)しかし、ブックレビュー欄なのだから、この作家を不幸にも知らない人にも薦めるのが務めといえば務めというわけで、たとえば、こんな文章を引いてくることにしましょう。

私の文章を読んで、(料理を=筆者註)作ってみようと思って作れなかった、という人がいたとしたら、その人は『生活』というもののあれこれに対する基本中の基本が身についていない、というだけで、私の文章のせいではありません。

読んで思わずニヤリとするあなたなら、このエッセイ集の良い読者になれるはずです。

作家として超一流なのは言うまでもなく、生活人としても気骨溢れるまっとうさを示す金井氏が、本書の装幀とイラストを担当している実姉・久美子氏との暮らしの中で食しているメニューの数々を紹介。こんなに贅沢な一冊もありません。豚肉の中国風お茶漬け、ヨーグルトの冷製スープ、フェニックス風カレー、ニンニクとトリの丸焼き、ナスのシャチ煮、ズシコのジャジャ麺etc。読んでいるうちに涎が口の中でツユだく状態になること必定。しかも、プルーストのマドレーヌじゃありませんが、味覚は記憶を甦らせ、料理の話がいつしか母の思い出へとシフトしていくのです。その流れるような文章の美しさ! 甦るのは記憶だけじゃありません。『ボヴァリー夫人』といった文学作品もまた、料理する徒然に思い出されるのです。時折ふいに顔を覗かせる、氏独特の意地悪かつ絶妙な人物&時事批評もスパイスとして極上の味わい。何度も言いますが、こんな贅沢な逸品もないのです。

【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

待つこと、忘れること? / 金井 美恵子
待つこと、忘れること?
  • 著者:金井 美恵子
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(268ページ)
  • 発売日:2002-10-01
  • ISBN-10:4582831176
  • ISBN-13:978-4582831177
内容紹介:
冬の紅玉、夏の白熊。ギネスビールで猫見酒?目白・カナイ家の食卓を彩る、おいしい料理の数々から、めくるめく食の記憶の海へ―。画家の姉と小説家の妹と、愛猫トラーが腕を振るった44皿、辛口あり、甘口ありのスパイシー・エッセイ集。

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初出メディア

婦人公論

婦人公論 2003年2月7日号

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