書評
『目白雑録 2』(朝日新聞出版)
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
都知事定例記者会見の席で、中国人の口調を差別的に真似してみせる石原慎太郎を〈バカのレイシスト〉と一刀両断にし、イラクの人質事件に際して〈アルジャジーラで放映された犯人グループへのメッセージを読みあげる川口順子のひきつった表情と口振り〉を〈お金が大好きで残忍な『小公女』のミンチン先生(眼が死んだお魚みたいだ、とセーラは思う)のようだ〉と茶化しながら、人質の家族たちが御迷惑をおかけしたとお詫びさせられっぱなしの状況に対する違和感を表明。
批判の対象は政治家だけにとどまりません。人間国宝の中村雀右衛門をも〈栗本慎一郎みたいな顔の女形はやだ〉と率直に斬り捨て、もちろん同業者の作家連中にも容赦ない批評を加えるばかりか、惨禍は時に一般人にも及ぶのが恐ろしいのであります。浅間が噴火したせいで売り物にならなくなったキャベツを一個百円で買った奥さんがインタビューに答えて「少しでも、被害にあった農家の人たちを支援できれば」と語るのをニュースで見て、〈ババア、と言いたい。安いから買ったと言えばいいだけのところを、被害にあった農家を少しでも支援する、というのならば、五百円か千円は出すだんべえ、と、私が群馬の農家のオヤジなら思うし、群馬の都市部のオヤジと農家のばあさん風に言えば、五百円か千円は出すんじゃねえのかい、である〉と辛辣な嫌みを飛ばす金井さんは、正しすぎです。素敵すぎです。
文学、政治、経済、事件、サッカーといった多岐にわたる話題を、金井さんは優雅にといだ爪を出し、容赦なく引っかいていきます。でもって、そのことごとくが「ごもっとも!」と合いの手を入れたくなるほど的確な攻撃で、しかも、思わず吹き出してしまうような芸のある言い回しになっており、オツムとセンスのよさにはうっとりするばかり。人間国宝なんて軽く超える世界遺産クラスの毒舌でありましょう。なのに、たったの千五百七十五円? そりゃ、あなた、二千円か三千円は出すだんべえ。
【この書評が収録されている書籍】
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
優雅にといだ爪で容赦なく引っかく世界遺産級の毒舌
前々回、前回と二回にわたって、渡辺淳一の『愛の流刑地』を精読してきた次第ですが、こんな本ばっか読んでると、ただでさえ悪い頭がさらに悪くなってしまいます。というわけで、久しぶりに知能指数も高ければ、センスもいい本を選んで、酷暑でぼーっとしている脳みそに活を入れようではありませんか。金井美恵子の『目白雑録2』。文壇一鋭い知性の持ち主の小気味いい毒舌が痛快至極。苦りばしって栄養満点なゴーヤのごときエッセイ集なんであります。都知事定例記者会見の席で、中国人の口調を差別的に真似してみせる石原慎太郎を〈バカのレイシスト〉と一刀両断にし、イラクの人質事件に際して〈アルジャジーラで放映された犯人グループへのメッセージを読みあげる川口順子のひきつった表情と口振り〉を〈お金が大好きで残忍な『小公女』のミンチン先生(眼が死んだお魚みたいだ、とセーラは思う)のようだ〉と茶化しながら、人質の家族たちが御迷惑をおかけしたとお詫びさせられっぱなしの状況に対する違和感を表明。
批判の対象は政治家だけにとどまりません。人間国宝の中村雀右衛門をも〈栗本慎一郎みたいな顔の女形はやだ〉と率直に斬り捨て、もちろん同業者の作家連中にも容赦ない批評を加えるばかりか、惨禍は時に一般人にも及ぶのが恐ろしいのであります。浅間が噴火したせいで売り物にならなくなったキャベツを一個百円で買った奥さんがインタビューに答えて「少しでも、被害にあった農家の人たちを支援できれば」と語るのをニュースで見て、〈ババア、と言いたい。安いから買ったと言えばいいだけのところを、被害にあった農家を少しでも支援する、というのならば、五百円か千円は出すだんべえ、と、私が群馬の農家のオヤジなら思うし、群馬の都市部のオヤジと農家のばあさん風に言えば、五百円か千円は出すんじゃねえのかい、である〉と辛辣な嫌みを飛ばす金井さんは、正しすぎです。素敵すぎです。
文学、政治、経済、事件、サッカーといった多岐にわたる話題を、金井さんは優雅にといだ爪を出し、容赦なく引っかいていきます。でもって、そのことごとくが「ごもっとも!」と合いの手を入れたくなるほど的確な攻撃で、しかも、思わず吹き出してしまうような芸のある言い回しになっており、オツムとセンスのよさにはうっとりするばかり。人間国宝なんて軽く超える世界遺産クラスの毒舌でありましょう。なのに、たったの千五百七十五円? そりゃ、あなた、二千円か三千円は出すだんべえ。
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