前書き

『ルイーザ・メイ・オールコットの「若草物語」クックブック:四姉妹たちの作品世界とすてきなレシピ』(原書房)

  • 2020/10/08
ルイーザ・メイ・オールコットの「若草物語」クックブック:四姉妹たちの作品世界とすてきなレシピ / ウィニ・モランヴィル
ルイーザ・メイ・オールコットの「若草物語」クックブック:四姉妹たちの作品世界とすてきなレシピ
  • 著者:ウィニ・モランヴィル
  • 翻訳:岡本 千晶
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(112ページ)
  • 発売日:2020-09-26
  • ISBN-10:4562057769
  • ISBN-13:978-4562057764
内容紹介:
ティータイムの軽食や、スイーツやかわいいデザートなど、マーチ姉妹の大好物を現代風にアレンジした50のレシピを紹介します。
今年6月に公開された映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、ご覧になりましたか?
しっかり者の長女メグ、活発で信念を曲げない次女ジョー、内気で繊細な三女ベス、人懐っこく頑固な末っ子エイミー……。ルイーザ・メイ・オールコットの世界的ベストセラー小説『若草物語』は、南北戦争時代に力強く生きるマーチ家の四姉妹が織りなす物語です。
この物語のなかで重要な役割を果たす食べ物とレシピをイラストと写真、料理にまつわるエピソードを紹介したすてきな本『ルイーザ・メイ・オールコットの「若草物語」クックブック』が出版されました。
50種の美味しい本格的なレシピは、すべて現代のキッチンに合わせてアレンジしてあり、実際につくることが可能です。ブランマンジェやボンボン、プラムプディング、ジンジャーブレッドケーキなど、見た目にもかわいらしいケーキやパイ、ティータイムの飲み物とスナック、朝食、ブランチ、ランチ、夕食メニューなどなど、盛りだくさん。
「はじめに」から少しだけ、公開します。

『若草物語』のマーチ四姉妹と、現代風にアレンジした50のレシピ


愛すべき小説『若草物語』でマーチ家の人々が友人や隣人に料理や食べ物を分け与えるとき、それは相手への気遣いや愛情を示す手段となっている場合がほとんどです。
メグ、ジョー、ベス、エイミーがそれを実践する最初の例としてわたしたちが目にするのは、クリスマスの日、貧しいドイツ人移民の家族に朝食のごちそうを譲る場面で、その後、姉妹はうちに帰って、パンとミルクで簡単な朝食をとることになります。
ジョーとローリーが友情をはぐくみ始めたころ、ジョーは風邪をひいたローリーを見舞い、メグが作ったブランマンジェを持参してこう言います。「やわらかいからのどが痛くても大丈夫。つるっとのみ込めるわよ」。

一家の料理人ハンナはどんなに忙しくても、「不機嫌」であっても、寒い日の朝は、仕事や学校に向かう姉妹が途中で手を温められるよう、毎日あつあつの二つ折りパイ、ターンオーバーを作ってくれます。
ベスが最初に病気になったとき、「メグはいそいそと白い手をよごしたり、やけどをしたりしながら、"いとしい妹"のためにおいしい食事をこしらえて」います。

人生の教訓もまた、食べ物を通じてもたらされます。料理人の仕事なんてわけないと考えていた娘たちは、母親の朝食を作ろうとします。そしてお茶が苦くなり、オムレツが焦げ、ビスケットが台無しになったとき、ハンナの言うとおり「家事は生やさしいことではない」と学ぶにいたるのです。
物語のなかで、ジョーとエイミーはそれぞれ別の機会に友人をもてなそうとしますが、さえない結末を迎えることになります。とはいえ、ふたりともその過程でいくつか教訓を拾い集めていきます。メグと夫のジョンは、メグのゼリー作りが大失敗に終わったあと、激しい口論をします。それでも後に、あのゼリーは「これまで作ったなかでいちばんおいしいゼリーだった」と思うようになります。なぜなら、衝突したことが夫婦の距離を縮める役に立ったからです。

また、食べ物は小説全編を通じて、ダンスパーティーや社交の場で何らかの役割を果たします。あるダンスパーティーの際、メグとローリーは「ボンボン・アンド・モットー」--気の利いた格言が書かれた包みに入ったキャンディー--を一緒に食べたり読んだりしながら笑い合います。パーティーの一部始終を聞かせてもらえるはずと期待して夜更かしをしていた妹たちのために、メグとジョーがボンボンをちゃんと持って帰ってきたことは言うまでもありません。
ローリーはイギリスの友人とマーチ姉妹を集めてボート遊びに出かけ、最後はのんびり、愉快なピクニックで締めくくります。エイミーは学校での社会的地位を維持するため、ライムの酢ピクルス漬け(当時、女学生のあいだで流行っていた食べ物)を同級生にどうしてもおすそ分けしたいと言いますが、悲しいかな、その努力は実りません。

最も注目すべきは、物語がピクニックで締めくくられることでしょう。一家はジョーがマーチ伯母さんから受け継いだ屋敷と土地、プラムフィールドに集い、りんご狩りの1日を過ごします。そして最後に、ジョーとメグが「草の上に夕サパー食を並べ」ます。「というのも、戸外でお茶をする時間はいつだって、りんご狩りの日の最高の喜びだった」からです。
そこから物語の最後まで、大地はミルクと蜜であふれます。子どもたちは馬跳びをしたり、ターンオーバーを食べたり、木の枝にぶら下がって歌をうたったり。果樹園にはクッキーやターンオーバーが散らばり、赤ちゃんがふざけてピッチャーにこぶしを突っ込み、ミルクをかき回しています。

姉妹と母親がその日の収穫と自分たちの人生を振り返るこのピクニックの場面は、物語における最高の歓喜であり、最後のセリフで、母親は感嘆の声を上げるにいたります。「ああ、あなたたちがどれだけ長生きしようと、これ以上の幸せは祈ってあげられないわ」

これからご紹介する49のレシピは、『若草物語』に登場する食べ物が伝える精神と喜びをとらえるうえで役に立つでしょう。
レシピの多くは、物語で言及されている具体的な料理からアイデアを得たもので、グリドルケーキ、そば粉のパンケーキ、たたきつぶしたポテト、ブランマンジェ、コンビーフ、アスパラガス、ボンボン・アンド・モットー、カラントゼリーのソース、ジンジャーブレッドなどは、マーチ家の人々が家族や友人や隣人たちと一緒に作ったり味わったりした食べ物です。

本書のレシピを考えるにあたり、まずは1850年ごろから1880年前後に出版されたアメリカの料理本に幅広く目を通してみることにしました。そこからレシピを選んでいったわけですが、念頭に置いたのは次の点です。
マーチ家の人々が食べたもの、住んでいた場所がわかっているのだから、それを踏まえて考えると、ほかにどんな食べ物が彼らの食事のスタイルに合うのか?
この時代、とくに人気があったレシピは何か?
たとえば、わたしが調べたほぼすべての料理本でマカロニ・アンド・チーズのレシピを目にしました。なので、当然、この本にもそのレシピがのっています。

では、これらのレシピはマーチ家の人々がそうしたであろうやり方とまったく同じ作り方になっているのか?
とんでもない!
もしそうなら、ブランマンジェ作りは、仔牛の足を煮出してゼラチンを取ることから始めなくてはならず、マカロニ・アンド・チーズの表面は、シャベルを火で熱し、真っ赤に焼けた鋤の部分を皿の上にかざして焦げ目をつけなくてはならないでしょう。
わたしのレシピで用いるのは現代の手法であり、現代の製品や機器を利用します。電気を使うことは言うまでもありません。
ほとんどの場合、「一から作る」料理にこだわったつもりではありますが、ベーキングミックスが使われているレシピもちらほら目にするでしょう。ただ、作り方がどうであれ、それぞれのレシピはマーチ家の人々がともに楽しんだであろう料理の精神をとらえたものになるように工夫されています。

わたしはティーンエージャーのときにはじめて『若草物語』を読み、この物語に魅了されました。
フードライター兼編集者として、先祖代々受け継がれてきたレシピに以前から魅了されていたわたしの夢は、昔の料理人が家族のために愛情を込めて作った料理を探するクックブックを書くことでした。

リサーチをし、このクックブックを書いたことで、わたしは『若草物語』に惚れ直しました。みなさんにとっても、本書が物語に惚れ直す役に立ってくれたらと願っています。
わたしのクックブックで紹介した食べ物を分かち合うことで、マーチ家の人々が食べ物を分かち合ったときと同じ経験をみなさんに味わっていただくこと、それがわたしの何よりの願いなのです。

[書き手]ウィニ・モランヴィル(フードライター兼編集者)(岡本千晶翻訳)
ルイーザ・メイ・オールコットの「若草物語」クックブック:四姉妹たちの作品世界とすてきなレシピ / ウィニ・モランヴィル
ルイーザ・メイ・オールコットの「若草物語」クックブック:四姉妹たちの作品世界とすてきなレシピ
  • 著者:ウィニ・モランヴィル
  • 翻訳:岡本 千晶
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(112ページ)
  • 発売日:2020-09-26
  • ISBN-10:4562057769
  • ISBN-13:978-4562057764
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ティータイムの軽食や、スイーツやかわいいデザートなど、マーチ姉妹の大好物を現代風にアレンジした50のレシピを紹介します。

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