前書き

『お金で騙す人 お金に騙される人:「金融・経済」詐欺の事件簿』(原書房)

  • 2021/05/13
お金で騙す人 お金に騙される人:「金融・経済」詐欺の事件簿 / ベン・カールソン
お金で騙す人 お金に騙される人:「金融・経済」詐欺の事件簿
  • 著者:ベン・カールソン
  • 翻訳:岡本 千晶
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(280ページ)
  • 発売日:2021-03-17
  • ISBN-10:4562058765
  • ISBN-13:978-4562058761
内容紹介:
人はつねにお金に目がくらむ。さまざまな金融詐欺事件や歴史を動かした詐術について紹介、かなしき人間の性をあきらかにしていく。
「お金がほしい。できたら大金がいいし、楽に手に入れたい」誰もが一度は願ったことがあるのではないだろうか。欲に目がくらんで誰にでも起こりうる詐欺事件について紹介した書籍『お金で騙す人 お金に騙される人』から序文を公開する。
 

 ナイジェリアの王子から相続財産が!

2008年、フレッド・ヘインズという便利屋を営む男が、カンザス州のウィチタ・ドワイト・D・アイゼンハワー国際空港をうろうろしながら、現金がぎっしり詰まった箱をふたつ抱えたナイジェリア人男性を探していた。あちこち尋ねて回り、1時間ほど待ったあげく、ヘインズはようやく、ナイジェリアからのEメールで約束された6400万ドルの遺産が飛行機を降りてくることはないのだと悟った。

ヘインズは2005年から2008年にかけて自宅を3回抵当に入れており、6桁もの現金を支払ったのだから、これでアフリカから7桁の相続財産が受け取れると期待していたのだ。

ナイジェリアの王子を語る詐欺(いわゆるナイジェリア詐欺)がこれほどうまくいくとは信じ難い話だが、本当かもしれないと、とにかく信じたがる人たちもいる。ヘインズが言うには、最初に受け取ったメールは、何かの冗談か詐欺のように思えたそうだ。それでも興味はそそられた。というのも、メールの送り手は、あなたに相続財産として数千万ドルを支払わねばならない、これは合法的にあなたのものだと断言していたからだ。詐欺師たちは、相続金は国から国へと送金されるが、資金の動きを監視する国際法にうまく対処するには、その過程で手数料が必要になると伝えてきた。

あるとき詐欺師たちは、相続金はナイジェリアからエジプト、イギリス、ニューヨークへ送金され、再びナイジェリアに戻されたと伝えてきた。ヘインズは手数料を支払ったあと、その金を取り戻そうとしたと言うが、もうウサギの穴にあまりにも深く入り込んでいたため、これが詐欺であるはずがないと自分に言い聞かせてしまった。

「彼らはナイジェリアの大統領がわたしに送ったという手紙まで見せてきたんです。手紙には大統領の写真や何かがいろいろ載っていました」とヘインズは言う。「ナイジェリアの大統領がどんな顔をしているのかパソコンで検索してみたところ、確かに写真の人は大統領でした」

その後ヘインズのもとに、当時のFBI長官で、現在、第45代アメリカ合衆国大統領に関するある種の捜査を行ったことで広く知られている人物、ロバート・モラーから次のような件名でEメールが舞い込んだ。メールの左上の隅にはモラーの写真があり、文面には文法上の誤りがいくつもあったが、そこにはこう書かれていた。

 

件名:フレッド・ヘインズ、コード名B-DOG

わたしはあなたのメールを受け取り、あなたのために、そしてあなたの口座の取引がうまくいくように、手数料を調達して彼らに送ることをお勧めます。そうすればあなたはご自分のお金を手に入れることができますし、すべてにおいて、この件に怪しい点がないことは明らかです。だれか探す[原文ママ]、そしてお金を借りてください。そうすれば3日後に相続金が支払われることを保証します。

 

これを聞くとびっくりするだろうか? ナイジェリアの王子から受け取る秘密の相続に関し、FBIの長官ロバート・モラーは、カンザス州の男性に実はメールは送っていなかった。というより、このメールは偽物だった。

問題は、ヘインズがその時点ですでにお金を払いすぎていて諦めがつかず、相続金はまだ手に入ると、かすかな希望を抱いたことだ。「あのナイジェリア人たちは、ものの話し方を心得ていたんです」。これが、この幻想にとらわれてしまったことに対するヘインズの説明だった。

幸い、ヘインズは国際送金サービス会社ウェスタンユニオンとの和解で、失った11万ドルを取り戻すことができたが、ほかの人たちはそこまでの幸運には恵まれなかった。


飛行機ゲーム

1980年代後半に飛行機ゲームと呼ばれる金儲けの手法が考案された。ルールはいたってシンプル。やるべきことは1500ドルを手渡すだけ。そうすればゲームの仕組みで、今度はその金が1万2000ドルになって返ってくる。なんと素晴らしい世界ではないか?

なぜ飛行機ゲームと呼ばれたかというと、新規のプレイヤーはそれぞれ、客室乗務員4人、副操縦士ふたり、パイロットひとりで構成されるフライトに搭乗する「乗客」8人のひとりとなるからだ。

8人の乗客全員が1500ドルずつ出資し、それが「フライト」の入場料として直接パイロットの手に入る。そして、すでに最初の1500ドルを出資し、階段を上り詰めたパイロットはゲームを終了する。その後、副操縦士が新たにふたつの飛行機の運航を開始し、その飛行機では、乗客がそれぞれ新しい乗客を連れてこなければならない(したがって、ここでひとり当たり1500ドル加算)。一連のプロセスがひと巡りすると、乗客は客室乗務員へとランクアップし、副操縦士を務めた後、パイロットとなって1万2000ドルを受け取った。そして、ゲームに参加する人を多く連れてくれば、その分、配当金を得る時期も早くなる。

このアイデアはアメリカのほかの地域に急速に広まった。ランクを上げてパイロットになり、精算するまでに4日しかかからなかったケースもある。このゲームは長きにわたり、非常にうまく機能したため、多くのプレイヤーが何度もこのプロセスを繰り返し、毎回、大枚1万2000ドルを手に入れていた。フロリダのある男性はこの「飛行機」を9回通り抜け、その過程で10万ドル以上を稼ぎ出した。

だが飛行機ゲームは続かなった。なぜならビジネスモデルがなかったからだ。このゲームにはこれといった利益、商品、収益が何ひとつなかった。

それどころか、飛行機ゲームの背後にあった考え方は要するに、「いい感じ」とポジティブ・シンキングだ。あなたは最初の参加者から、あなたもきっと豊かな暮らしや幸福や富への道をイメージできますよと伝えられる。

ゲームは確実にうまくいくかに思えるのだが、やがてあなたは、最初の乗客8人がお金を受け取るには、新しい乗客を64人勧誘する必要があると気づく。そして、カードで作られた危なっかしい家が崩壊しないようにするため、この64人はいきなり、512人の新しい乗客を勧誘する必要に迫られるのだ。1万2000ドルを手に入れるには、そのたびに8人が最初に1500ドルを「失う」必要があった。

FBIがポンジ・スキーム(運用益を配当すると約束して出資させるが、実際の運用はなく、新しい出資者からの出資金を配当金として支払いながら、破綻することを前提に金を騙し取る手法の詐欺)の運営に眉をひそめていたというちょっとした問題もあったため、法執行機関が飛行機ゲームの存在に気づいたとき、この見え透いた茶番は崩壊した。

 

失敗録から学んでよりよい決断を!

あなたが考えていることはわかる。「ばかげた話だ!」「ナイジェリアの王子から秘密の相続財産!?」「いい感じがするからって、それまでの蓄えをポンジ・スキームに渡してしまう!?」

そして、これらの話は、あなたが個人的に関わっていない場合はばかげたことに思える。けれども自分のお金のこととなると、人はばかげた決断をしてしまうのが常なのだ。あなたはポンジ・スキームに引き込まれたり、王族になりすましたアフリカの14歳の子どもにお金を渡したりすることは決してないかもしれないが、自分の財務状況のこととなると、だれもが間違いを犯す。わたしたちは感情の生き物であり、お金はそのような感情の最も悪いところを引き出す傾向にある。

世界は複雑な場所だ。すべてを理解している者はひとりもいない。わたしたちは、財務状況、健康、人間関係を改善するための楽な道があると信じたがる。苦しみを取り除いてくれる聖杯に運良く出くわす人たち専用の秘密クラブに入りたい。聖杯が存在すればどんなにいいかと思うが、一夜にして金持ちになったり、第一人者の効果的な言葉で人生を立て直したりするための絶対確実な方法は存在しない。

本書で読む話のほとんどは、「そんなこと、自分には起こり得ない」と思わせるだろう。実は、大がかりな詐欺やポンジ・スキームの犠牲になった経験がなくとも、いざ自分のお金のこととなると、皆、愚かな決定を下してしまうのだ。わたしたちのDNAにはそのような傾向が刻まれている。

たいがいのビジネス書や金融の本は成功する方法を教えてくれる。富を築いたり、成功した起業家やビジネスモデル、投資家、CEOを手本にしたりするための秘訣や処方箋、やる気を引き起こす引用、簡単なステップを紹介するとうたっている。本書はそのようなたぐいの本ではない。成功事例ばかり研究する本の問題点は、多くの場合、生存者バイアスに満ちていることだ。失敗に終わったほかのビジネスやアイデア、あるいは同じようなルートを試したのにうまくいかなかった人たちに関するありとあらゆる事柄は、決してあなたの耳に入ることはない。宝くじに当たった人は、成功と富への道をどう進めばいいか、あなたに教えることはできない。

失敗、不正、ペテン師、怪しげな販売慣行、信用詐欺から学ぶことのほうがはるかに多い。なぜなら、何を避けるべきかを教えてくれるからだ。

楽に金持ちになるための公式はない。高機能CEOのトップ10リストを見て朝の日課を実践すれば自動的に起業家として成功できるわけではない。

しかし、誤った決断、騙されやすい人、強引なセールスマン、理性を失った人間の行動、誤った思考を研究すれば、それを自分のこととして見やすくなる。多くの場合、愚かな行動を避けるほうが、優れた才能を手本にしようとするより役に立つ。

優秀な人たちでさえ、誤った判断をする可能性がある。 お金は地球上で最も求心力のある媒体のひとつだ。あらゆるレベルの財産を持つ人々――金持ち、貧乏人、そのあいだにいるすべての人――が自分のお金のことで愚かな決断をしてしまう。その理由は単純だ。お金に関する決断は、自分の財務状況とは何の関係もなく、すべては人間の本性と関係があるからだ。

本書の目的は、あなたが他者の過ちから学んでより良い決断を下す手助けをし、人につけ込まれないようにすることにある。

[書き手]ベン・カールソン(著者)
お金で騙す人 お金に騙される人:「金融・経済」詐欺の事件簿 / ベン・カールソン
お金で騙す人 お金に騙される人:「金融・経済」詐欺の事件簿
  • 著者:ベン・カールソン
  • 翻訳:岡本 千晶
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(280ページ)
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  • ISBN-10:4562058765
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