前書き

『[ヴィジュアル版]シルクロード歴史大百科』(原書房)

  • 2019/10/08
[ヴィジュアル版]シルクロード歴史大百科 / ジョーディー・トール
[ヴィジュアル版]シルクロード歴史大百科
  • 著者:ジョーディー・トール
  • 翻訳:岡本 千晶
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(264ページ)
  • 発売日:2019-09-14
  • ISBN-10:4562056819
  • ISBN-13:978-4562056811
内容紹介:
中央アジアを横断する「シルクロード」は、物資・文化・民族などの東西移動の最も重要な幹線だった。本書は美しい大判写真と資料図版、年表、地図によって古代の壮大な交易ルート「絹の道」をたどり、文化と歴史を解説する。
雪を頂く険しい山岳地帯、広大な砂漠と草原地帯、連なるキャラバン……。中央アジアを横断する古代の東西交易路「シルクロード」は、中国を発し、タリム盆地の南北に点在するオアシス都市国家群を通り、パミール高原を越え、西アジアから地中海沿岸に達する、物資や文化、民族などの東西移動の最も重要な幹線でした。
本書は美しい大判写真と資料図版、年表、地図によって古代の交易ルート「絹の道」をたどり、現代の「一帯一路構想」にもつながる壮大な歴史と文化を紹介します。正倉院の宝物など文物のみならず、政治や宗教の知識も遠くから日本へもたらした『[ヴィジュアル版]シルクロード歴史大百科』の「はじめに」を公開します。

古代の東西ネットワーク

シルクロードは人類史上、最も重要な幹線道だったと言えるだろう。この道を巡って数々の戦がなされ、この道を閉ざさずにおくために苦肉の策が取られてきた。無数の商人や宣教師、使節や追いはぎ、皇帝や王や王妃、農民たちが足を踏み入れたことにより、この道はぜいたく品の交易、略奪軍の移動、恐るべき病の伝播を促す経路となり、繁栄と厄災の両方をもたらした。
しかし何よりも重要なのは、シルクロードが思想の動脈でもあったこと、ユーラシア全土で文化や技術の交流をけん引する役割を果たしたことであろう。中国と中東を結び、主として東西に走るシルクロードだが、その影響はさらに遠く離れた地域にも拡大した。

シルクロード(Silk Road)とは、19世紀後半に作り出された言葉にすぎず、この呼び名はいろいろな意味で間違っている。
第一に、これは1本の道(road)ではなく、進路が絶え間なく変化する道路網であり、多くの場合、荒涼とした地域を通る、かろうじて見分けがつくような小道のネットワークだった。
第二に、ローマ帝国が中国の絹を手に入れようとしたことにより、この道路網の初期の交易は大いに弾みがついたが、これらの道は絹以外にも、スパイス、香料、宝石をはじめ、馬、磁器、武器にいたるまで、多くのものを運んでいた。
最後に、陸路は海のシルクロードへとつながり、最終的には、インド洋沿岸の港をつないで地中海へと通じるこの海路に取って代われた。

現代によみがえるシルクロード

シルクロードについて語る場合、中央アジアおよび中国領トルキスタンを走る中核地域――タクラマカン砂漠およびパミール高原周辺――に焦点が当てられることがある。だが異なる文脈では、地中海から東シナ海沿岸のはるかに広いユーラシア全域を含め、中東や中国の中央部、さらにはインドやシベリアについても、より詳しく検討するのが妥当となる場合もある。本書ではこうした流動性を反映し、検討中の側面に応じて目線を移していく。

シルクロードの存在は、商業主義に走りがちな人間の性分と、中央アジアの地形がもたらした結果である。山脈に砂漠という恐るべき組み合わせを有する地形により、東西交易に利用できるルートの選択肢が限定されてしまったのだ。
数千年をかけて形勢されたこの交通路は、中国唐王朝時代の西暦1千年紀の終わりにかけて黄金期を迎えたが、交易商人たちがあまり険しくないルートへ回るようになり、いにしえのラクダの足跡を砂漠が跡形もなく覆い隠してしまうと、いつしか忘れ去られていった。

19世紀に再発見されて以来、陸のシルクロードの伝説的交易路は、大衆の想像力を刺激し、乾いた砂漠、肥沃な渓谷、危険な峠、ぽつんと現れるオアシスの集落、皇帝の都、大規模なラクダのキャラバン(隊商)、遊牧民の軍隊、独り旅の巡礼者のイメージを呼び起こしてきた。ソ連崩壊に続く中央アジアの開放にともない、シルクロード観光が急成長を始めている。

21世紀に入り、世界がますます相互につながるようになると、シルクロードは息を吹き返してきた。その歴史的遺産の価値が国連に認められ、すでに新たな鉄道網が確立しており、中国は一連の古代ルートを再開させるという野心的な(コストのかかる)計画に着手している。
これは、史上最も壮大な物語の新たな章の始まりである。

[書き手]ジョーディー・トール(イングランド、ウィンチェスターを拠点に活動するフリーランスのライター、フォトグラファー。オーストラリアのシドニー大学とジェームス・クック大学に学んだのち、オーストラリアン・ジオグラフィックおよび、ナショナル・ジオグラフィック・トラヴェラー(オーストラリア/ニュージーランド)に勤務。その後、王立地理学会の機関紙「ジオグラフィカル」の編集者を務めた)(岡本千晶訳)
[ヴィジュアル版]シルクロード歴史大百科 / ジョーディー・トール
[ヴィジュアル版]シルクロード歴史大百科
  • 著者:ジョーディー・トール
  • 翻訳:岡本 千晶
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(264ページ)
  • 発売日:2019-09-14
  • ISBN-10:4562056819
  • ISBN-13:978-4562056811
内容紹介:
中央アジアを横断する「シルクロード」は、物資・文化・民族などの東西移動の最も重要な幹線だった。本書は美しい大判写真と資料図版、年表、地図によって古代の壮大な交易ルート「絹の道」をたどり、文化と歴史を解説する。

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