そのことは、すでに処女長篇『野獣の血』に如実に現われている。本書は、妻を自殺で失った男が、妻をレイプした不良少年たちに復讐を企む物語なのだが、主人公の設定に舌を巻く。彼は大学の社会学教授、それも「暴力」についての講座をもつ男なのだ。暴力を理性的に検討する男が、激情によって、現実に暴力者となるという本書(原題は「A Time od Predators」――『捕食獣どもの時』)のプロットは、この作品が「ノワール」と呼ばれる犯罪小説/暴力小説の本質それ自体を主題にしていることを示している――極限状況においては、社会や文明に代表される人間の「理性的なる部分」は無効となり、抑圧されてきた「野蛮で非理性的な部分」が噴出するという。