書評

ポール・G・フォーコウスキー『微生物が地球をつくった -生命40億年史の主人公-』(青土社)、ニコラス・P・マネー『生物界をつくった微生物』(築地書館)

  • 2018/07/24
微生物が地球をつくった -生命40億年史の主人公- / ポール・G・フォーコウスキー
微生物が地球をつくった -生命40億年史の主人公-
  • 著者:ポール・G・フォーコウスキー
  • 翻訳:松浦俊輔
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • 発売日:2015-10-23
  • ISBN-10:4791768922
  • ISBN-13:978-4791768929
内容紹介:
さあ、地球の小さな仲間たちと知の冒険の旅へ!太古の地球の酸素化、光合成をする植物の誕生、動物たちの進化大爆発、人間界の発酵化学や遺伝子工学…。微生物たちがいなかったら全て不可能だった。目に見えないくらい小さな生物の、驚くほど壮大な世界をめぐる知の冒険。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

生物界をつくった微生物 / ニコラス・P. マネー
生物界をつくった微生物
  • 著者:ニコラス・P. マネー
  • 翻訳:小川 真
  • 出版社:築地書館
  • 装丁:単行本(252ページ)
  • 発売日:2015-11-17
  • ISBN-10:4806715034
  • ISBN-13:978-4806715030
内容紹介:
DNAの大部分はウィルス由来。植物の葉緑体はバクテリア。生きものは、微生物でできている! 何世紀もの間、我々人類は自分が目にした動物や植物をもとにして、生物の世界を描いてきた。顕… もっと読む
DNAの大部分はウィルス由来。
植物の葉緑体はバクテリア。
生きものは、微生物でできている!

 何世紀もの間、我々人類は自分が目にした動物や植物をもとにして、生物の世界を描いてきた。顕微鏡が微生物の隠れた世界を垣間見せてくれたが、微生物世界の真の大きさとその重要性に光が当てられたのは、ここ10年ばかりのことである。
 人体、樹木、海水や海底の泥、土壌や湖沼や河川、大気などのすべてが、微生物に満ちあふれている。しかも、その活動は地球の歴史とともに、生物圏を形作り、維持するのに必要不可欠なものなのだ。微生物は、我々自身にとっても必須の存在であり、食べ物を消化するという点で膨大な数の微生物に頼っているのだ。
 著者のニコラス・マネーは、地球上の生物に対する考え方を、ひっくり返さなければならないと説く。葉緑体からミトコンドリアまで、生物界は微生物の集合体であり、動物や植物は、微生物が支配する生物界のほんの一部にすぎないのだ。
 著者は単細胞の原核生物や藻類、菌類、バクテリア、古細菌、ウイルスなど、その際立った働きを紹介しながら、我々を驚くべき生物の世界へ導いてくれる。また、繊細で美しい植物プランクトンから、空気中の菌の胞子や土の中にいる空中窒素固定細菌、海底の黒い噴出孔にくらす極限環境微生物の古細菌に至るまで、地球上のあらゆる場所に微生物が満ちあふれていることも教えてくれる。
肉眼では見えない小さな生物の大きな世界へ想像の翼をひろげよう。

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石油よりも人類に必要なもの

これらの本を読むと、人類がいかに微生物に依存し、限りない恩恵を与えられたかがよくわかる。病気になるのも、健康でいられるのも微生物次第というわけで、全ての動植物は生殺与奪の権を微生物に委ねているのだから、生物圏の支配者は人類などではなく、大気や土壌、海洋、湖沼河川、森林などあらゆる領域を形成し、維持している微生物の方なのである。地球を動かすナノマシンとしての微生物こそが創造主なのである。

人類は目が悪いせいで、ごく最近までそれに気づかなかった。光の画家フェルメールと同郷のレーウェンフックが高倍率顕微鏡を発明し、自分の口腔(こうこう)粘膜を球形のレンズを通して眺めてみた時、ミクロコスモスへの回路が開いた。レーウェンフックは自分の体が無数の微生物たちの乗り物になっていることに気づいた最初の人物ということになる。その後、ナノ世界にまで観察の目が届くようになると、この地球に生命が誕生し、それが進化していったプロセスが明らかになってきた。地球がメタンに満ち、マグマに覆われた過酷な環境だった頃に現れたシアノバクテリアは光合成を行い、大気中に大量の酸素を放出した。このように微生物は酸化と還元のように電子の移動を行うことで地球環境をつくり変えてきた。そのプロセスで地球上の生物は五回以上の大量絶滅の試練にさらされたが、完全に滅びずに済んだのは、微生物が多様なDNA交換を生物圏全体に及ぼしたからである。ヒトが乳製品や海藻を消化できるようになるといった変異も微生物にうながされたのである。

ノーベル医学生理学賞の大村智先生は各地の土壌サンプルを宝物のように持ち帰っていたそうだが、微生物は医薬品の開発のみならず、食料やエネルギーへの活用、さらに地球温暖化対策の鍵さえ握っている。今後、人類が頼るべきは石油より微生物である。

微生物が地球をつくった -生命40億年史の主人公- / ポール・G・フォーコウスキー
微生物が地球をつくった -生命40億年史の主人公-
  • 著者:ポール・G・フォーコウスキー
  • 翻訳:松浦俊輔
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • 発売日:2015-10-23
  • ISBN-10:4791768922
  • ISBN-13:978-4791768929
内容紹介:
さあ、地球の小さな仲間たちと知の冒険の旅へ!太古の地球の酸素化、光合成をする植物の誕生、動物たちの進化大爆発、人間界の発酵化学や遺伝子工学…。微生物たちがいなかったら全て不可能だった。目に見えないくらい小さな生物の、驚くほど壮大な世界をめぐる知の冒険。

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生物界をつくった微生物 / ニコラス・P. マネー
生物界をつくった微生物
  • 著者:ニコラス・P. マネー
  • 翻訳:小川 真
  • 出版社:築地書館
  • 装丁:単行本(252ページ)
  • 発売日:2015-11-17
  • ISBN-10:4806715034
  • ISBN-13:978-4806715030
内容紹介:
DNAの大部分はウィルス由来。植物の葉緑体はバクテリア。生きものは、微生物でできている! 何世紀もの間、我々人類は自分が目にした動物や植物をもとにして、生物の世界を描いてきた。顕… もっと読む
DNAの大部分はウィルス由来。
植物の葉緑体はバクテリア。
生きものは、微生物でできている!

 何世紀もの間、我々人類は自分が目にした動物や植物をもとにして、生物の世界を描いてきた。顕微鏡が微生物の隠れた世界を垣間見せてくれたが、微生物世界の真の大きさとその重要性に光が当てられたのは、ここ10年ばかりのことである。
 人体、樹木、海水や海底の泥、土壌や湖沼や河川、大気などのすべてが、微生物に満ちあふれている。しかも、その活動は地球の歴史とともに、生物圏を形作り、維持するのに必要不可欠なものなのだ。微生物は、我々自身にとっても必須の存在であり、食べ物を消化するという点で膨大な数の微生物に頼っているのだ。
 著者のニコラス・マネーは、地球上の生物に対する考え方を、ひっくり返さなければならないと説く。葉緑体からミトコンドリアまで、生物界は微生物の集合体であり、動物や植物は、微生物が支配する生物界のほんの一部にすぎないのだ。
 著者は単細胞の原核生物や藻類、菌類、バクテリア、古細菌、ウイルスなど、その際立った働きを紹介しながら、我々を驚くべき生物の世界へ導いてくれる。また、繊細で美しい植物プランクトンから、空気中の菌の胞子や土の中にいる空中窒素固定細菌、海底の黒い噴出孔にくらす極限環境微生物の古細菌に至るまで、地球上のあらゆる場所に微生物が満ちあふれていることも教えてくれる。
肉眼では見えない小さな生物の大きな世界へ想像の翼をひろげよう。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2016年1月31日

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