書評
ポール・G・フォーコウスキー『微生物が地球をつくった -生命40億年史の主人公-』(青土社)、ニコラス・P・マネー『生物界をつくった微生物』(築地書館)
石油よりも人類に必要なもの
これらの本を読むと、人類がいかに微生物に依存し、限りない恩恵を与えられたかがよくわかる。病気になるのも、健康でいられるのも微生物次第というわけで、全ての動植物は生殺与奪の権を微生物に委ねているのだから、生物圏の支配者は人類などではなく、大気や土壌、海洋、湖沼河川、森林などあらゆる領域を形成し、維持している微生物の方なのである。地球を動かすナノマシンとしての微生物こそが創造主なのである。人類は目が悪いせいで、ごく最近までそれに気づかなかった。光の画家フェルメールと同郷のレーウェンフックが高倍率顕微鏡を発明し、自分の口腔(こうこう)粘膜を球形のレンズを通して眺めてみた時、ミクロコスモスへの回路が開いた。レーウェンフックは自分の体が無数の微生物たちの乗り物になっていることに気づいた最初の人物ということになる。その後、ナノ世界にまで観察の目が届くようになると、この地球に生命が誕生し、それが進化していったプロセスが明らかになってきた。地球がメタンに満ち、マグマに覆われた過酷な環境だった頃に現れたシアノバクテリアは光合成を行い、大気中に大量の酸素を放出した。このように微生物は酸化と還元のように電子の移動を行うことで地球環境をつくり変えてきた。そのプロセスで地球上の生物は五回以上の大量絶滅の試練にさらされたが、完全に滅びずに済んだのは、微生物が多様なDNA交換を生物圏全体に及ぼしたからである。ヒトが乳製品や海藻を消化できるようになるといった変異も微生物にうながされたのである。
ノーベル医学生理学賞の大村智先生は各地の土壌サンプルを宝物のように持ち帰っていたそうだが、微生物は医薬品の開発のみならず、食料やエネルギーへの活用、さらに地球温暖化対策の鍵さえ握っている。今後、人類が頼るべきは石油より微生物である。