コラム

シェイクスピア『ロミオとジュリエット』(新潮文庫)、『古事記』(岩波文庫)、『万葉集』(岩波文庫)、『源氏物語』(岩波文庫)

  • 2020/01/06

危機の中の恋

ませていたのかもしれない。幼稚園のころ、図書室の、裏が緑のラシャで表地が黒いカーテンの後ろに男の子と二人で隠れんぼしたのが、私の初恋だった。遠足で水筒とバッグを斜めに肩からかけて、彼と手をつなぐときもドキドキした。

その次は小学校一年のとき、校舎の裏の崖でじゅず玉をつんで、校庭の隅に二人で埋めて隠した。隠れたり、隠したり、秘密をもつことは恋のはじめのようだ。二年になるとまた別の子を好きでたまらなくて、三年の始業式の日、クラス替えで別のクラスになったなら、その子の胸に顔を埋めて泣こうと思いつめたりした。

そんな感情を持ったのは、私が早くから、本を読んでばかりいたためかもしれない。幼稚園のときの『フランダースの犬』。パトラッシュを連れた少年ネルロに、私は少女アロアのように同情し、愛した。子ども向きに書き直した『源氏物語』も、いま思えば皇国史観か立川文庫(たちかわぶんこ)流の歴史のシリーズの大国主命(おおくにぬしのみこと)や義経の恋も私を興奮させた。

私の胸を高鳴らせたヒーローとヒロインたちを思い出してみる。

まずはアーサー王と円卓の騎士たち。これは『ランスロット』という映画を父と見たのが決定的だったのだが、騎士ランスロットは王妃ギネビアの輿(こし)入れを守護して旅をつづけるうち、主君の妃と通じてしまう。塔に幽閉された王妃を助け出しに、塔にしのんでゆく騎士のカッコ良さ。

ずっとのちに深夜テレビで見たら二流の歴史映画でがっかりしたが、私は興奮して、ブルフィンチ『中世騎士物語』『トリスタン・イズー物語』をはじめ、ありとあらゆる西洋の騎士物語を読んだ。

中世騎士物語 / ブルフィンチ
中世騎士物語
  • 著者:ブルフィンチ
  • 翻訳:野上 弥生子
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(383ページ)
  • 発売日:1980-02-00
  • ISBN-10:4003222520
  • ISBN-13:978-4003222522
内容紹介:
アーサー王、トリスタンとイゾルデ、パーシヴァル等々、伝説やオペラの主人公として活躍する王や騎士、貴婦人たち。彼らは騎士道の典型-力、勇気、謙譲、忠誠、憐憫、貞淑など諸徳を具備した人間として登場する。『ギリシア・ローマ神話』で神々の世界をいきいきと伝えたブルフィンチ(1796‐1867)は、本書で中世の人々をも鮮やかに現出させている。

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トリスタン・イズー物語 /
トリスタン・イズー物語
  • 翻訳:佐藤 輝夫
  • 編集:ベディエ
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(303ページ)
  • 発売日:1985-04-16
  • ISBN-10:4003250311
  • ISBN-13:978-4003250310
内容紹介:
愛の秘薬を誤って飲みかわしてしまった王妃イズーと王の甥トリスタン。この時から2人は死に至るまでやむことのない永遠の愛に結びつけられる。ヨーロッパ中世最大のこの恋物語は、世の掟も理非分別も超越して愛しあう"情熱恋愛の神話"として人々の心に深くやきつき、西欧人の恋愛観の形成に大きく影響を与えた。

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次はやっぱり『ロミオとジュリエット』。ラム姉弟の挿絵付の『シェイクスピア物語』は、それこそ何百回めくったかわからない。仇同士の旧家に生れ、娘には親の決めたいいなずけがいた。

二人は仮面舞踏会の夜、そうとは知らずに恋に落ちた。

私にとって唯一つの恋が唯一つの憎しみから生れる! 知らずにお会いしたのが早過ぎて、知った時にはもう遅すぎる!

中学に入るとすぐ、新潮世界文学のシェイクスピア(福田恆存訳)を買い、オリビア・ハシーとレナード・ホワイティング主演の映画を日比谷に見に行った。銀座のイエナ書店で英語版を買い、図書館にあった古い坪内逍遥訳全集まで読みふけった。

ロミオとジュリエット / シェイクスピア
ロミオとジュリエット
  • 著者:シェイクスピア
  • 翻訳:中野 好夫
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(267ページ)
  • 発売日:1996-12-00
  • ISBN-10:4102020012
  • ISBN-13:978-4102020012
内容紹介:
モンタギュー家の一人息子ロミオは、キャピュレット家の舞踏会に仮面をつけて忍びこんだが、この家の一人娘ジュリエットと一目で激しい恋に落ちてしまった。仇敵同士の両家に生れた二人が宿命的な出会いをし、月光の下で永遠の愛を誓い合ったのもつかのま、かなしい破局をむかえる話はあまりにも有名であり、現代でもなお広く翻訳翻案が行われている。
世界恋愛悲劇の代表的傑作。用語、時代背景などについての詳細な注解および作品解説を付す。

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シェイクスピア物語  / チャールズ・ラム,メアリ・ラム
シェイクスピア物語
  • 著者:チャールズ・ラム,メアリ・ラム
  • 翻訳:矢川 澄子
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(251ページ)
  • 発売日:2001-09-18
  • ISBN-10:4001145464
  • ISBN-13:978-4001145465
内容紹介:
有名なシェイクスピアの戯曲を、ラム姉弟が原典のたいせつな表現を生かしながら書き下ろした物語。四大悲劇「ハムレット」「リア王」「オセロ」「マクベス」をはじめ、「ロミオとジュリエット」「ヴェニスの商人」など、11編を選んだ。中学以上。

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西洋の本だけではない。『古事記』などはもう全編、恋と死の匂いでむせかえるようだ。もちろんこれも最初は『古事記物語』といった翻案物で、天の岩戸の前のアメノウズメのストリップにびっくりしたくらいだろう。が、岩波文庫の『古事記』にはもっとすばらしい情熱がある。

たとえば垂仁天皇の妃沙本媛(さほひめ)は、同母の兄沙本彦に「夫(を)と兄(いろせ)と孰(いず)れか愛(は)しき」と問われて「兄ぞ愛しき」と答えたため謀反を教唆される。夫である天皇を刺せ、といわれて「哀しき情(こころ)に忍びずて、頸を刺すこと能(あた)はずして、泣く涙御面に落ち溢れき」というのだ。(このところアンデルセンの『人魚姫』『三国志』にも似た話がある)

企てが露見して兄に従う妃を、天皇は忘れかねて奪還しようとする。髪でも着物でもつかんでひき戻せ、という夫の命を知って、沙本媛は髪を剃ってかつらで頭をかくし、酒で衣を腐らせて引けば破れるようにした。そしてみごと、恋する兄に殉じて死ぬ。

日本武尊(やまとたけるのみこと)の話も心を刺すようだ。まつろわぬ民を平定せよと父に命令され、「天皇既に吾(あれ)死ねと思ほす所以(ゆえ)か」とつぶやく。(ここを、現代語に直すと悲劇性が薄まってしまう)

そして、海神を怒らせた夫の窮地を、弟橘媛(おとたちばなひめ)は自ら犠牲(いけにえ)となって救うのである。

さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひし君はも

走水の海(相模水道)に彼女がひらり飛びこむとき、女の最後の声はかつての、危機の中での恋の思い出だった。

このほか速総別(はやぶさわけ)王と女鳥(めどり)王も、木梨(きなし)の軽太子(かるのみこ)と軽大娘(いらつめ)(衣通姫(そとおりひめ))も、恋のために身を亡ぼしてゆく。なんと単純で力強い悲劇だろうか。

古事記物語 / 鈴木 三重吉
古事記物語
  • 著者:鈴木 三重吉
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(223ページ)
  • 発売日:2002-05-01
  • ISBN-10:4562035145
  • ISBN-13:978-4562035144
内容紹介:
高天原から下った男女の神々の出会いから日本は生まれた。そこから始まるとても人間的な神々の物語。愛、裏切り、笑い、冒険、悲しみ、希望…日本を代表する児童文学者が描く、ファンタジーの傑作。

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古事記 / 倉野 憲司
古事記
  • 著者:倉野 憲司
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(342ページ)
  • 発売日:1963-01-16
  • ISBN-10:4003000110
  • ISBN-13:978-4003000113
内容紹介:
8世紀初めに成立した現存するわが国最古の歴史書・文学書。数多い口伝えを、天武天皇が稗田阿礼に命じて覚えさせ、元明天皇が太安万侶に書きとめさせたもの。天地開闢に始まり、伊邪那岐命、伊邪那美命の国生み神話、須佐之男命の大蛇退治等、神代より推古天皇に至る皇室の系譜を中心に、わが国古代の神話・伝説・歌謡を広範囲に収録。

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『万葉集』の岩波文庫はボロボロである。好きな歌に丸がついてたり、赤線がひいてあったり、何度も朗読したから、いくらも暗誦できる。

君待つとわが恋ひ居ればわが屋戸の簾うごかし秋の風吹く

恋人を待つ切なさ、微妙な心の揺れ。この名歌を詠んだ額田王のお姉さん、中大兄皇子の寵を争った鏡女王も負けてはいない。

神奈備(かむなび)の伊波瀬(いはせ)の杜の喚子鳥いたくな鳴きそわが恋益(まさ)る

ふりしぼるようではありませんか。だけれど、どれをとるかといわれれば、同じく中大兄の政略で従容と死につく有馬皇子の二首が、白眉だろう。

磐代(いはしろ)の浜松が枝を引き結び真幸(まさき)くあらばまたかへり見む

家にあれば笥(け)に盛る飯(いひ)を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る

いまも紛争や戦火は地球上に絶えず、人の命はいかにも軽い。しかし簡単に殺される人間がその直前に、このような自然への深々とした愛、小さな日常のしぐさを懐しむ歌を詠むとは。そのころ読書仲間の級友はそれぞれ『万葉集』の中に憧れの人を見つけていたけれど、私は断然、有馬皇子ファンだった。

もう一つ、『万葉集』で忘れられないのは、葛飾の真間の手古奈(てこな)の伝説である。彼女は何人かの男に愛され、悩んだあげくついに入水したという。

……望月の 満(た)れる面わに 花の如 咲(え)みて立てれば 夏虫の 火に入るが如 水門(みなと)入に 船榜(こ)ぐ如く 行きかぐれ 人のいふ時 いくばくも 生けらじものを 何すとか 身をたな知りて 浪の音の 騒く湊の 奥津城(おくつき)に 妹が臥(こや)せる 遠き代に ありける事を 昨日しも 見けむが如も 念(おも)ほゆるかも

海をわが墓とした娘。高橋虫麻呂がその伝説をしのんで歌った長歌である。これに夢中になって、私は市川の真間をたずねたことがある。

万葉集 /
万葉集
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(464ページ)
  • 発売日:2013-01-17
  • ISBN-10:400300051X
  • ISBN-13:978-4003000519
内容紹介:
日本の文学の源、最古の歌集。天皇から名もなき男女までの、人々の心のかたちを映しだす全二十巻四千五百余首。本冊には巻1‐4、額田王、大津皇子、柿本人麻呂、山部赤人、大伴家持らの歌を収録。新日本古典文学大系に基づき、現代語訳と注釈を付した新版。

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平安時代になると、男も風が吹けば泣き、月の傾くのを見て泣いて、軟弱このうえなく見えるけれど、私は泣く男が好きで、定期試験が終わると、古風な『伊勢物語』をいつも寝ころがって読んでいた。

恋のために人の娘を盗むのは盗人である。しかし盗まれた女はそのうち男が好きになってしまう。男はとうとうつかまって女を草むらにおいて逃げる。追手がこの野には盗人がいるから火をつけようとするとき、女が困って詠んだうた。

武蔵野はけふはな焼きそ若草のつまもこもれり我もこもれり

結局、二人とも捕まって引き立てられるのだけれど、この気持、胸にいたい。

伊勢物語 / 大津 有一
伊勢物語
  • 著者:大津 有一
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(115ページ)
  • 発売日:1964-12-16
  • ISBN-10:4003000811
  • ISBN-13:978-4003000816
内容紹介:
在原業平とおぼしき貴公子を主人公とするこの物語は、彼の元服から終焉までの一代記風の構成をとる。権力とは別次元の価値体系に生きる男、后・斎宮から田舎女・召使との恋愛、報われることを期待しない女の愛、麗しい友情、主従の厚い情義など、ここにはそれまでの王朝文学の思いも及ばなかった愛情の諸相が生き生きと描かれる。

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このように恋というのは遠さの自覚で、その人を思っても、触れることのできない障害や禁忌があるからこそ燃え上るのである。主君の妻だったり、実の兄に魅かれたり、敵と味方であったり……。

『源氏物語』で一番好きなシーンはやはり、「花宴」の朧月夜の君との出会いだ。桜の宴が果てて、酔心地の源氏が弘徽殿の細殿あたりをふらふらすると戸が開いている。「朧月夜に似るものぞなき」と誦(ず)して来る女がいる。ふと袖をとらえる。やおら抱き降ろして、戸を立てる。

あさましきにあきれたるさま、いとなつかしうをかしげなり。わななくわななく、「ここに、人」とのたまへど、「まろは皆人にゆるされたれば、召し寄せたりとも、なんでふことかあらん。ただ忍びてこそ」とのたまふ声に、「この君なりけり」と聞き定めて、いささか慰めけり。

昔の宮中は自由な性の実践場だったらしい。高位で美男子、舞も唄も上手な源氏は自分が拒まれないと知っている。ニクイではないか。女も源氏の君となら、と心ほどけて許すのだが、この女性、源氏の仇敵、弘徽殿の女御の妹六の君で、兄東宮の妃となるべき運命のひとだった。このことが彼の失脚、須磨行きの原因となるわけで、恋が身をほろぼす一例。

源氏物語紅葉賀―明石 /
源氏物語紅葉賀―明石
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(624ページ)
  • 発売日:2017-11-17
  • ISBN-10:400351016X
  • ISBN-13:978-4003510162
内容紹介:
朧月夜に似るものぞなき-政敵の娘との密会が発覚し、須磨・明石へと流れてゆく光源氏…。葵上・六条御息所・紫上など、優美な女君との恋愛模様が描かれる紅葉賀から明石までの七帖。新日本古典文学大系版による精密な原文、最新の成果を盛り込む注解と補訳。原文で読む千年の物語。

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これと同じくらいステキなのが、『和泉式部日記』。彼女は冷泉院の皇子二人に愛された恋の名手である。亡き為尊親王をしのぶ式部を見舞う弟帥宮(そちのみや)(敦道親王)とも恋に落ちてしまう。男が通うのが王朝物の常なのに、この宮は突然、式部を連れ去る。

「いざたまへ。こよひばかり。人もみぬ所あり。心のどかにものなども聞えん」とて車をさしよせて、たゞのせにのせ給へば我にもあらでのりぬ。

略奪される女の、気もそぞろな興奮が伝わる。式部が宮家に入ると宮妃が邸を出るといった騒ぎがあったが、この最愛の宮も数年たたぬうち二十七歳で亡くなる。

『和泉式部集』より。

つれづれと空ぞみらるる思ふ人あまくだりこん物ならなくに

くろかみのみだれもしらずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき

和泉式部日記―現代語訳付き /
和泉式部日記―現代語訳付き
  • 翻訳:近藤 みゆき
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:文庫(270ページ)
  • 発売日:2003-12-01
  • ISBN-10:4043699018
  • ISBN-13:978-4043699018
内容紹介:
140首余りの珠玉の和歌を擁する、王朝女流日記文学の傑作。今は亡き恋人への追慕に明け暮れる和泉式部へ、弟の帥宮敦道親王から便りが届き、新たな恋が始まった。和泉式部が宮邸に迎えられ、宮の正妻が宮邸を出るまでの10か月を、技巧を駆使した贈答歌とともに綴った、物語的な側面をも兼ね備えた作品。明解な注と美しい現代語訳により、『和泉式部日記』の世界が目の当たりに立ち上がる。参考資料として、『和泉式部集』から、敦道親王死去後の和泉式部の悲痛な心情を歌った「帥宮挽歌群」全122首を収める。

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和泉式部集/和泉式部続集 / 和泉式部
和泉式部集/和泉式部続集
  • 著者:和泉式部
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(340ページ)
  • 発売日:1983-05-16
  • ISBN-10:4003001729
  • ISBN-13:978-4003001721
内容紹介:
「和泉はけしからぬ方こそあれ」と紫式部に指弾されるほど奔放な生活を送った和泉式部は、早くも少女の日にその生涯を予感するかのように「暗きより暗き道にぞ入りぬべき……」と歌った。平安文化の爛熟をまたその崩壊を身をもって詠じた天性の詩人和泉式部。歌集の中から本文において最も信憑性の高い正・続を併せ一冊とした。

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ちょっと有名な例を引きすぎたかもしれないが、以上ほとんど岩波文庫で読める。『曾根崎心中』『赤と黒』『ポオルとヴィルジニイ』や、若い人には読んでゾクゾクしてほしい「恋愛入門」本がまだまだある。私は小さな頃から古典の中の恋愛にときめいたことはよかったと思う。一つは、大きくなったら打掛姿の花嫁になりたい、などというケチな夢を追わず、もっとダイナミックに男と女がわたりあう恋のイメージを心に刻んだことである。
もう一つは、性がいけないこと、いやらしいこと、という入り方でなく、好きあった男女が合体したいと願うのはなんと自然ですばらしいことなのだろうという性のイメージを持ち得たことである。興味と刺激本位の週刊誌などで目をけがさなくてよかったと思う。

だから私はいかに苦しみ傷つこうとも恋に対して果敢であるが、その後の日常の中で恋を愛に作り替えていくのはじつに下手である。それというのも私がどっぷり浸かった古典の恋が極限状況にすぎるせいかもしれない。とはいえ、私はそのたびごとに反省はするが、後悔したことはないのである。

【初出】
読書のすすめ /
読書のすすめ
  • 編集:岩波文庫編集部
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(304ページ)
  • 発売日:1997-10-16
  • ISBN-10:4003500156
  • ISBN-13:978-4003500156
内容紹介:
なぜ、本を読めとすすめるかといえば、私自身が若い頃に本が好きで、人より読書に熱心だったことが、70年も生きてきて、つくづくよかったと、身にしみて思うからです(瀬戸内寂聴「若き日にバラを摘め」)。著名な学者・小説家ら37氏の個性と体験がにじみ出る読書のすすめ。熱いメッセージは世代の別を越えて読む者の心に響く。

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【このコラムが収録されている書籍】
深夜快読 / 森 まゆみ
深夜快読
  • 著者:森 まゆみ
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:単行本(269ページ)
  • 発売日:1998-05-01
  • ISBN-10:4480816046
  • ISBN-13:978-4480816047
内容紹介:
本の中の人物に憧れ、本を読んで世界を旅する。心弱く落ち込むときも、本のおかげで立ち直った…。家事が片付き、子どもたちが寝静まると、私の時間。至福の時を過ごした本の書評を編む。

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