この新訳の特徴は、(1)韻文劇であることを重視して、原文のリズム(韻律)とライム(押韻)を日本語で再現している。たとえば第一幕第二場の終わり、ハムレットの台詞、「悪事は必ず露見する」と「天知る、地知る、人は知る」の脚韻のように。脚韻箇所は記号で示される。(2)野村萬斎のプロデュース。劇場の芸術監督として、俳優として、演出家として、そして狂言師として、野村が河合に新訳および改訂を依頼し、訳文にも意見を反映させている。つまり、演じること、声に出して読む(あるいは聴く)ことを前提にしている。
『ハムレット』の翻訳といえば、注目はTo be,or not to beをどう訳すか。訳者あとがきには、1874年チャールズ・ワーグマン(疑問符付き)の「アリマス、アリマセン、アレワナンデスカ」から2020年の西ヶ廣渉の「このまま生きるか、それとも死ぬか、それが疑問だ」まで、50もの訳例が並べられている。河合は「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」とした。
本文を通読後、本文下の詳細な脚注や訳者あとがき、野村の後口上を読むと、面白さがさらに深まる。さあ、声に出して読もう。