ポーの諸作を三巻に編んだ新訳選集である。際立っているのは、一つに言語面での驚異的な忠実さだ。訳者の河合氏はシェイクスピア学者として、言葉遊びや地口が満載された韻文の訳出を数々経験してからポーを再読したところ、その韻文の凝った技巧に改めて感嘆し、新訳に乗りだしたという。訳出するのは当然ながら意味だけではない。ライム(押す韻)に加えてミーター(韻律)までが再現される驚き。ポー自ら「構成の原理」で分析した「大鴉」(「ゴシックホラー編」)の緻密な翻訳には腰を抜かすしかない。各連の一行目と三行目に仕込まれた中間韻もすべて再現されているではないか! 「怪奇ミステリー編」はセレクションと共に、ポーの怪死に迫る解説も圧巻。死の前にポーが見せた痙攣(けいれん)、幻覚、おかしな言動……。従来の通説が鮮やかに覆される。三巻目を「ブラックユーモア編」としたことにも快哉(かいさい)を叫びたい。短編小説、謎かけ詩、創作論も収められ、特に「Xだらけの社説」を読めば、ポーが大いに天邪鬼(あまのじゃく)で悪魔的なユーモリストであることがわかる。巻末の「ポーを読み解く人名辞典」は永久保存版だ。
【第2巻】
【第3巻】