書評
『ハッピーアイスクリーム』(中央公論新社)
こういう短歌もあり!
かつて俵万智さんが『サラダ記念日』という短歌集を出した時、それはいかにも新しくて、なんだか切実で、それゆえに若い人たちの共感を大いに呼びおこし、一世を風靡したことは記憶に新しい。ところがそれ以来、世の中の若者たちの短歌は猫も杓子も俵万智風になってしまって、すっかり新味が薄れてしまったのは遺憾なることであった。
と思っていたら、今はまたさらに一順して、加藤千恵さんという若い歌人が評判だというので、私はさっそく処女歌集『ハッピーアイスクリーム』を買って読んだ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2006年)。
真ッピンクの装幀の文庫本はそのたたずまいからしてなにやら悩ましい感じがするのだが、中身を読んでみて、その切ないようなエロスに感じ入った。たとえば、
左手が微妙な位置で浮いたままなにも言えずにくちづけをした
合格を祈願している場合じゃないだってあたしは恋をしたのだ
欲しいとか欲しくないとかくだらない理屈の前に奪ったらどう?
泣くくらい好きだからって泣きそうに好かれるわけじゃなかったんだわ
というような、これはもう十代の女の子でなければ書けない境地だよなあと、つくづく羨ましい言葉のありようである。しかも、とてもセンスがいいと思うのだ。
そうかと思うと、
人生はこれからなどと気が重くなることばかり聞かされている
屋上へつづく扉が開かないのはつまりそういうことなのだろう
というようなシリアスで皮肉な歌もある。どれもみな悲しいほど切実な歌だけれど、心配なのは、これでまた皆が加藤千恵風になってしまわないかということ。
初出メディア

スミセイベストブック 2006年7月号
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