『東大ファッション論集中講義』(ちくまプリマー新書)が話題になった著者が、この150年間、日本人は何を着てきたのかを振り返る。
近代西洋のファッションは市民社会における新興階級の台頭とともに発展した。日本の場合は政府からの命令により推進された国家的プロジェクトだった。だが、政治体制が一瞬で変わっても、人びとの生活様式の変化はゆっくりしている。関東大震災(1923年、大正12年)のころになっても東京では多くの女性が着物を着ていたという。
徐々に洋服が受け入れられていくのは、日本人の意識が変わったからだけではない。取り入れるべき同時代の西洋のファッションが、大きく変わっていった。コルセットで締め上げる大仰かつ動きにくいものから、シンプルでカジュアルなスタイルへ。これならいいわ、とモダンガールたちは思ったのだろう。
興味深いのは第二次世界大戦下の女性たちが着た白エプロン(割烹着)とモンペだ。これなら着物の上から着られて、なおかつ手足を活発に動かせる。「日本の女性たちは戦争という極限的な状況のなかで身体の活動性を獲得したと言える」と著者は述べる。