書評

「2025年 この3冊」毎日新聞|<1>押川 典昭『プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代』上・下(めこん) <2>細川 瑠璃『フロレンスキイ論』(水声社) <3>村田 優樹『ウクライナの形成 革命期ロシアの民族と自治』(東京大学出版会)

  • 2025/12/27

2025年「この3冊」

<1>押川 典昭『プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代』上・下(めこん)

<2>細川 瑠璃『フロレンスキイ論』(水声社)

<3>村田 優樹『ウクライナの形成 革命期ロシアの民族と自治』(東京大学出版会)


<1>二〇世紀インドネシアを代表する国民的作家の生涯を描いた大作。長年研究に打ち込んできた著者のライフワークである。現代史の壮大なパノラマであるとともに、人間像を生き生きと浮かび上がらせた感動的な伝記文学でもある。

<2>の主人公はスターリン時代の粛清に倒れた司祭。哲学・数学・宇宙論・美学・工学と何でもできた万能の天才だったが、その思想は極めて難解で時に奇抜。文理両面に通じた著者が見事に解明した。

<3>ウクライナ民族主義者とロシア自由主義者の相互関係を丹念に掘り起こし、両民族共存の道がいかに探られたかに焦点を当てた。敵対と憎しみばかりが強調される現代に啓示の光を投げかける。

<2><3>は三〇代の若手研究者のデビュー作。世代交代の爽やかな風だ。

プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代 / 押川 典昭
プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代
  • 著者:押川 典昭
  • 出版社:めこん
  • 装丁:単行本(564ページ)
  • 発売日:2025-08-28
  • ISBN-10:483960343X
  • ISBN-13:978-4839603434
内容紹介:
二〇世紀アジアを代表する作家プラムディヤ・アナンタ・トゥールの世界初の評伝。作家は、いかに生き、いかに闘ったのか。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代 / 押川 典昭
プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代
  • 著者:押川 典昭
  • 出版社:めこん
  • 装丁:単行本(624ページ)
  • 発売日:2025-08-28
  • ISBN-10:4839603448
  • ISBN-13:978-4839603441
内容紹介:
過酷な労働と理不尽な暴力が支配する流刑地ブル島に一〇年あまりつながれた作家は、渾身の歴史小説を書き上げた。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。


フロレンスキイ論 / 細川 瑠璃
フロレンスキイ論
  • 著者:細川 瑠璃
  • 出版社:水声社
  • 装丁:単行本(310ページ)
  • 発売日:2025-04-07
  • ISBN-10:4801008623
  • ISBN-13:978-4801008625
内容紹介:
西欧絵画の遠近法と異なる中世イコンの「逆遠近法」を解き明かしたことで知られ、美学のみならず神学、化学、工学、集合論・数論における多彩な業績を残すも、スターリン体制下で銃殺されたロ… もっと読む
西欧絵画の遠近法と異なる中世イコンの「逆遠近法」を解き明かしたことで知られ、美学のみならず神学、化学、工学、集合論・数論における多彩な業績を残すも、スターリン体制下で銃殺されたロシア正教の司祭フロレンスキイ。
その美学・神学・数学的著作を貫く〈形〉、〈不連続性〉、〈個と全の対立〉を巡る思想を明らかにし、20世紀ロシアの最も謎めいた思想家の全体像に光を当てる、初のモノグラフの試み。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。


ウクライナの形成: 革命期ロシアの民族と自治 / 村田 優樹
ウクライナの形成: 革命期ロシアの民族と自治
  • 著者:村田 優樹
  • 出版社:東京大学出版会
  • 装丁:単行本(324ページ)
  • 発売日:2025-10-02
  • ISBN-10:4130210882
  • ISBN-13:978-4130210881
内容紹介:
民族領域自治はいかに議論され実現したのかロシアによるウクライナ侵略による戦争がいまだつづく現状のなかで、そもそもこの「ウクライナ」という国家はいかに成立したのか。ロシア革命期の知… もっと読む
民族領域自治はいかに議論され実現したのか
ロシアによるウクライナ侵略による戦争がいまだつづく現状のなかで、そもそもこの「ウクライナ」という国家はいかに成立したのか。ロシア革命期の知識人たちの言説と論争からロシアとウクライナの交差する歴史を明らかにする。

【主要目次】
序 章 ウクライナとロシア─交差する歴史
第一章 一九〇五年革命とウクライナ民族領域自治構想の登場
第二章 ロシア帝国国家ドゥーマと自治論争
第三章 帝政末期ロシア社会と「ウクライナ問題」論争 、一九〇七-一九一四
第四章 第一次世界大戦と「ウクライナ問題」の国際化
第五章 一九一七年二月革命とウクライナ民族領域自治の実践
第六章 ウクライナ運動の分化 ――領域自治派と主権共和国派
第七章 自治なきあとの独立論と連邦論――一九一八─一九年のウクライナにおける国制構想と外交の相互関係
第八章 過ぎ去った自治と来るべき自治――フルシェフスキーとノリデの国制論と政治的実践
終章 近代ウクライナ国家のゆくえ

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年12月20日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

関連記事
ページトップへ