書評

『氷の華』(幻冬舎)

  • 2017/12/01
氷の華 / 天野 節子
氷の華
  • 著者:天野 節子
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(506ページ)
  • 発売日:2008-06-01
  • ISBN-10:4344411552
  • ISBN-13:978-4344411555
内容紹介:
専業主婦の恭子は、夫の子供を身篭ったという不倫相手を毒殺する。だが、何日過ぎても被害者が妊娠していたという事実は報道されない。殺したのは本当に夫の愛人だったのか。嵌められたのではないかと疑心暗鬼になる恭子は、自らが殺めた女の正体を探り始める。そして、彼女を執拗に追うベテラン刑事・戸田との壮絶な闘いが始まる。長編ミステリ。
はじめは自費出版だった。それがドラマ化もされ、今や文庫は32万部を突破。これがデビュー作となる著者は刊行当時60歳。本書の背景は中身と同じくドラマチックだ。「定年を迎えた後、孤独と向き合いつつどうやって日々を過ごすのか? その答えが書くことでした、書くことで世の中とつながっていたい、とおっしゃっていました」と、担当編集者の君和田麻子さん。「そこから4年半かけて書かれた作品。二重三重に仕掛けられた緻密(ちみつ)なわな、ラストのどんでん返しなど、とにかくよく練り上げられています」

主人公は美貌(びぼう)と知性を兼ね備えた主婦、恭子。夫の不倫を知り巧妙な手口で相手の女性を毒殺。が、後日疑問を抱く。殺したのは本当に愛人だったのか、自分は誰かにはめられたのではないか……。そんな彼女をベテラン刑事が執拗(しつよう)に追う。

警察との攻防、事件の真相の追及がスリリングに描かれる。なんといっても殺人者ではあるが、孤独と自尊心を抱きしめて凜(りん)と立つ恭子の姿が魅力的。

実は最初出版を予定していた版元は、刊行前に倒産。改めて出資し、06年に幻冬舎ルネッサンスから自費出版にこぎつけた。周囲の編集者たちが作品にほれ込み、手直しを加え07年に幻冬舎から単行本を刊行、今年文庫化。当初の読者は30〜50代男女だったが、文庫化の際、オビにドラマの告知と主演の米倉涼子さんの写真を入れると、20〜30代の女性が一気に増えた。

読者からは作品の感想のほか、「勇気をもらった」「自分も定年後やりたいことをやります」と、著者へのメッセージも届く。本書により恭子と著者、2人のヒロインが誕生した。
氷の華 / 天野 節子
氷の華
  • 著者:天野 節子
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(506ページ)
  • 発売日:2008-06-01
  • ISBN-10:4344411552
  • ISBN-13:978-4344411555
内容紹介:
専業主婦の恭子は、夫の子供を身篭ったという不倫相手を毒殺する。だが、何日過ぎても被害者が妊娠していたという事実は報道されない。殺したのは本当に夫の愛人だったのか。嵌められたのではないかと疑心暗鬼になる恭子は、自らが殺めた女の正体を探り始める。そして、彼女を執拗に追うベテラン刑事・戸田との壮絶な闘いが始まる。長編ミステリ。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2008年9月21日

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