書評
『きょうの おやつは』(福音館書店)
見ておどろいて想像する視覚体験
最初の一ページをめくっただけで、完全にもっていかれた。とびきりの臨場感! こんなすてきな絵本が登場した驚きに背中を押され、紹介せずにはいられない。『きょうのおやつは』を初めて見たのはつい一週間前、テレビの収録スタジオで、ゲストに呼ばれたBS11の番組「宮崎美子のすずらん本屋堂」の収録中だった。代官山蔦屋の澤峰子さんがお勧めの本を紹介する三冊のうちの一冊が、これだった。メイン司会者の宮崎さんも、MCの『本の雑誌』浜本茂さんも、手にしてびっくり。「うわー」「すごい!」……感嘆詞の連続。もちろん私も大興奮。あらためて再確認した。子どもを夢中にさせる絵本は、大人の心もわし掴(づか)みにする。
『きょうのおやつは』は「かがみのえほん」シリーズの二作目である。ページが鏡のように映り込む紙でできている斬新なアイデア。前後のページが九十度になるように開くと、アラ不思議! 宙に浮かんだ卵から中身がするりっとボウルを目がけて落下中のシーンが目に飛びこんでくるではないですか!
いきなり三次元の世界が現れて、「ええっ!?」。信じられないものを見た思いで次のページを急いで開くと、今度は牛乳パックの口から、牛乳が注がれている瞬間のシーン。ボウルのなかにはすでに白い粉と卵二個が盛り上がって、牛乳じょぼじょぼ。自分が台所に立っている気分になってくる……ああ、もどかしい。くどくど言葉で説明しても伝わらなくて。
きょうのおやつはホットケーキ。ページをめくるたび、フライパンから白い湯気がもわもわ。フライ返しでひっくり返したホットケーキが「ほっ」、宙返り。きつね色の香りが漂ってきて悶絶(もんぜつ)。書店では、子どもが生ツバ溜(た)めながら夢中になっているという。
著者は、視覚伝達デザインをテーマにして作品を制作している絵本作家。鏡の原理を活用したシンプルな構成だが、巧みな工夫がぴりりと利いている。手が描かれていないのは、読み手自身が料理している感覚を味わえるように。ときどき登場する猫の存在が、おやつの時間のぬくもりを効果的に盛り上げている。控えめな演出だからこそ、読み手が主役になれるところがすばらしい。
シリーズ一作目『ふしぎなにじ』は、鏡の手法は同じだが、内容ががらりと違う。五色の虹が鏡の効果で突き抜けたり、増殖したり、交差したり、めくるめく視覚世界が展開する。ページを開く角度によって微妙に虹の現れ方が異なるぶん、読み手の参加度も深まるという具合。虹という幻想的な視覚体験の本質を突いている。
いつ何度開いてもびっくりするところが、すてきだ。私は翌日、「欲しい!」と自分で二冊を買いに走ったけれど、贈り物にもらったらどんなにうれしかったろう。誕生祝いや出産祝いにも、絶好のプレゼントが見つかった。
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