書評

『拡張の世紀』(東洋経済新報社)

  • 2018/06/17
拡張の世紀 / ブレット・キング
拡張の世紀
  • 著者:ブレット・キング
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(565ページ)
  • 発売日:2018-03-30
  • ISBN:4492762426
内容紹介:
ヒト型ロボット、寿命延長、ゲノム編集、空飛ぶ車、ブロックチェーン、etc “Tech界のグル”が予言する衝撃の未来!!

発想力や目標、問題を立てる力が大切

人工知能(AI)の発達で大変化が起きる。ただ、その激変がいかなるもので、20~30年後の社会は、どうなるか。それを知るのに好個の一冊である。

将来、車は自動運転化で免許不要。路上を往来する車を「時間借り」するので車の保有も激減。10年後には、ロンドン中心部で人間による運転が禁止されるとまで、著者はいう。そんなに変化が速いか?とも思うが、人類の生活相の変化は、我々の代から、超高速化している。新技術が25%の普及率に達するのに要した時間をみよう。米国の場合、電気が46年、電話が35年だったが、今は速い。携帯電話は13年。フェイスブックやアイフォンは3年ぐらいで達した。過去なら、千年かかった変化が1世代25年で一気に降りかかってくる。そんな人類史の変曲点に、我々はいる。

変化の内容は激しい。エネルギーは太陽光発電の伸びが著しく多様化。自給自足型になり、配電網を握る巨大電力会社は凋落(ちょうらく)すると予測する。そのうえ、あと十年たらずで世界中で「銀行口座の携帯電話化」が進む。価値を蓄蔵する形が変わるので、銀行口座とクレジットカードでの決済は急減する。人々は、携帯型の機器(スマートデバイス)に、買い物や予約、お金の管理まで助けてもらう。体質の古い銀行の経営陣は、おそらく、この変化を理解できず、参入が遅れ、決済の世界から押し出される可能性がある、という。21世紀中頃からは、新しいテクノロジーをベースにして、万事が進む。台頭するのはテクノロジー企業だ。大手銀行や巨大エネルギー産業が、経団連の会長を出してこの国をリードする時代は、終焉(しゅうえん)を迎えるだろう。

そして教育や就業は革命的に変わる。変わらざるを得なくなる。最近、機械が「猫を猫。犬を犬」と見分ける力が人間を超えた。それで、車の運転、作業全般、配送、介護、調理まで、ロボットが行える前提が整った。あと15年で、地球上のロボット台数が80億台に達し、生きた人間の人口を超えるとの予測がある。これまでの自動化はブルーカラーの仕事を奪ってきた。これからはホワイトカラーの仕事を奪う。サービス業のロボット化が進む。楽観的にみれば、骨折り仕事はロボットがやり、余暇が増える。医薬は進歩し、寿命はのびる。我々は「ご隠居さま」のように余暇時間をもつ。この余暇の楽しみを創出する新タイプの仕事が生まれるだろう。失業もあるが新職種も生まれる。人工知能分野では、米国や中国が強い。おそらくクルマの時代のように日本は世界を席巻できず、経済的な地位を下げるだろう。新技術の時代は、30代以下がどしどし企業役員になれるような風土がないと、発展は難しい。日本の将来は明るくないが、介護ロボットやゲームの仮想現実分野では幾分か強みがありそうだ。これらを活(い)かしながらやっていくしかなかろう。

就業でいえば、勤務先も収入源も、一つでは、すまなくなるかもしれない。例えば、企業に所属はしても別の仕事を複数、個人でする。大学にはいくが、新職種の学びもするといったように、個人は柔軟に生きることになろう。終身雇用やフルタイムの仕事など、人類史上、この200年の異常現象だ。発想力、面白いモノやコトをデザインする力、目標や問題を立てる力が大切になる。知識・技術がすぐに陳腐化する急変の時代だ。やわらかい頭を持ち、新しい事態を面白がって、いつも学びを続けるタイプの人間のほうが生きやすい。本書を読んで、新型の教育を設計し、急いで実施する必要がある、と痛感した。
拡張の世紀 / ブレット・キング
拡張の世紀
  • 著者:ブレット・キング
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(565ページ)
  • 発売日:2018-03-30
  • ISBN:4492762426
内容紹介:
ヒト型ロボット、寿命延長、ゲノム編集、空飛ぶ車、ブロックチェーン、etc “Tech界のグル”が予言する衝撃の未来!!

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2018年6月10日

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