書評

『常世の花 石牟礼道子』(亜紀書房)

  • 2018/06/29
常世の花 石牟礼道子 / 若松 英輔
常世の花 石牟礼道子
  • 著者:若松 英輔
  • 出版社:亜紀書房
  • 装丁:単行本(178ページ)
  • 発売日:2018-04-20
  • ISBN:4750515469
内容紹介:
苦しみの中にある者たちを照らし続けた作家に捧げる、言葉の花束。人間を超え、生類へと広がる世界を見つめ続けた石牟礼道子。『苦海浄土』をはじめ数々の名著を遺して世を去った作家が生涯を賭して闘ったものとは何だったのか。作家と親しく交流し、NHK「100de名著『苦海浄土』」で講師もつとめた… もっと読む
苦しみの中にある者たちを照らし続けた作家に捧げる、言葉の花束。人間を超え、生類へと広がる世界を見つめ続けた石牟礼道子。『苦海浄土』をはじめ数々の名著を遺して世を去った作家が生涯を賭して闘ったものとは何だったのか。作家と親しく交流し、NHK「100de名著『苦海浄土』」で講師もつとめた批評家がその精髄に迫る。石牟礼道子と著者の対談も収録。 昨年の六月に会ったとき、石牟礼さんが伝えたいと言っていたのも、どんなに語ろうとしても言葉にならないことがある、ということだったような気がしている。会って話さねばならないことがある、人はそう強く感じても、それを語り得るとは限らない。だが、対話を求められた方は、その気持ちを受けとめることができる。語り得ないことを語り継ぐ、それが石牟礼道子の遺言だったと、私は勝手に解釈している。(あとがきより)

人柄や文学の本質伝える

今年2月10日、石牟礼道子さんが亡くなった。本書の柱の一つは、追悼文である。新聞に7本、月刊誌等に3本。短期間に集中的に書かれたそれらは、ほぼ重なることなく、石牟礼さんの人柄や文学の本質をあますところなく伝えている。かつて書かれた重厚な石牟礼道子論や、著者との対談も収められていて、これほど親交の深かった人であるならば、亡くなった直後の悲しみは如何ばかりかと察せられる。思えば追悼文とは、過酷な依頼だ。ふいうちの悲しみのなか、締め切りを急かすのだから。

しかし著者の筆は温かく穏やかで、石牟礼道子という人から受け取ったものの大きさや深さを、過不足なく届けることに集中している。不特定多数の読者を想定して書かれたこともあるのだろう、こうしてまとまってみると、簡潔にして魅力的な「石牟礼道子入門」の誕生となった。

『苦海浄土 わが水俣病』を、石牟礼は「詩」として書いたという。これほど腑に落ちる話はない。魂を揺さぶるようなあの言葉たちが、単なるルポルタージュや告発であるはずがない。彼女は自分自身を「言葉の通路」となして、「語ることを奪われた者たちの手となり、口となってその思いを世に」届けた。

詩であればこそ、それは水俣にとどまらない。命を踏みにじってまで経済を優先させる愚かな社会に対して、石牟礼の言葉は普遍的な光を放ち続けている。

水俣病の患者だったきよ子さんについて著者は「私は、石牟礼さんの文章を通じてしか、きよ子さんを知らないのですが、石牟礼さんの作品を読んで、人と人は、面と向かって会うという仕方でなくても会えるのだと感じました。きよ子さんは私にとっても、とてもなつかしい人で、他人の気がしないのです」と対談で語っている。同じように、本書を通じて石牟礼道子という人に会い、なつかしく感じる人は多いだろう。私も、その一人だ。
常世の花 石牟礼道子 / 若松 英輔
常世の花 石牟礼道子
  • 著者:若松 英輔
  • 出版社:亜紀書房
  • 装丁:単行本(178ページ)
  • 発売日:2018-04-20
  • ISBN:4750515469
内容紹介:
苦しみの中にある者たちを照らし続けた作家に捧げる、言葉の花束。人間を超え、生類へと広がる世界を見つめ続けた石牟礼道子。『苦海浄土』をはじめ数々の名著を遺して世を去った作家が生涯を賭して闘ったものとは何だったのか。作家と親しく交流し、NHK「100de名著『苦海浄土』」で講師もつとめた… もっと読む
苦しみの中にある者たちを照らし続けた作家に捧げる、言葉の花束。人間を超え、生類へと広がる世界を見つめ続けた石牟礼道子。『苦海浄土』をはじめ数々の名著を遺して世を去った作家が生涯を賭して闘ったものとは何だったのか。作家と親しく交流し、NHK「100de名著『苦海浄土』」で講師もつとめた批評家がその精髄に迫る。石牟礼道子と著者の対談も収録。 昨年の六月に会ったとき、石牟礼さんが伝えたいと言っていたのも、どんなに語ろうとしても言葉にならないことがある、ということだったような気がしている。会って話さねばならないことがある、人はそう強く感じても、それを語り得るとは限らない。だが、対話を求められた方は、その気持ちを受けとめることができる。語り得ないことを語り継ぐ、それが石牟礼道子の遺言だったと、私は勝手に解釈している。(あとがきより)

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初出メディア

熊本日日新聞

熊本日日新聞 2018年6月17日

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