書評

『若松英輔エッセイ集 悲しみの秘義』(ナナロク社)

  • 2017/08/11
若松英輔エッセイ集 悲しみの秘義 / 若松 英輔
若松英輔エッセイ集 悲しみの秘義
  • 著者:若松 英輔
  • 出版社:ナナロク社
  • 装丁:単行本(160ページ)
  • 発売日:2015-11-27
  • ISBN:4904292650
内容紹介:
悲しみを通じてしか見えてこないものが、この世には存在する。涙は、必ずしも頬を伝うとは限らない。悲しみが極まったとき、涙は涸れることがある。深い悲しみのなか、勇気をふりしぼって生きている人は皆、見えない涙が胸を流れることを知っている。人生には悲しみを通じてしか開かない扉がある。悲しむ者は、新しい生の幕開けに立ち会っているのかもしれない。耳をすます、小さな声で勇気と希望に語りかける、二十五編のエッセイ。
もしあなたが今、このうえなく大切な何かを失って、暗闇のなかにいるとしたら、この本をおすすめしたい。

あるいは、目の前のことに追われすぎて、ささいなことでイラついたり、何が大事かということさえ考える余裕がなかったりするなら、やはりこの本をおすすめしたい。

ずいぶんタイプの違う人にすすめるようだけれど、つまり両者に必要なのは「人生を俯瞰する視点」だと思うから。

実はこの年末年始、私はかなり心に余裕がなかった。近視眼的にしか、ものを考えられない状態だった。その中で本書を開くと、日常とは明らかに違う時間が流れはじめるのを感じた。心がしーんとして、人生の中で、自分がどのへんで何をしているかということや、大事にしなくてはならない人をおろそかにしていないかというようなことを、なんというかとても清浄な気持ちで考えられるのだ。たぐいまれな美しい装幀が、そういう気持ちに寄り添ってくれることも心地よかった。これからも、俯瞰する目を失いそうになったら、この本に助けてもらおうと、いざというときのために何と心強い一冊を得たかと、救われる思いだった。

宮澤賢治、須賀敦子、神谷美恵子…本書で引用される人たちの多くは、愛する者を人生の途中で失うという経験をしている。引用の達人である著者は、切り出してきた宝石のような言葉たちに独自の光をあて、そのまま出会っていたら気づかないような輝きを見せてくれる。「読むことは、書くことに勝るとも劣らない創造的な営みである。」とは本書の一節だが、まさにそのことが体現されている。

死者や悲しみや孤独について書かれた文章を、これほどまでに著者が読み解き、そこに自身の心を見出す理由は、「彼女」という章で明らかになる。引用の達人などと簡単に書いてしまったけれど、それは魂を賭けて言葉を味わった軌跡なのだ。
若松英輔エッセイ集 悲しみの秘義 / 若松 英輔
若松英輔エッセイ集 悲しみの秘義
  • 著者:若松 英輔
  • 出版社:ナナロク社
  • 装丁:単行本(160ページ)
  • 発売日:2015-11-27
  • ISBN:4904292650
内容紹介:
悲しみを通じてしか見えてこないものが、この世には存在する。涙は、必ずしも頬を伝うとは限らない。悲しみが極まったとき、涙は涸れることがある。深い悲しみのなか、勇気をふりしぼって生きている人は皆、見えない涙が胸を流れることを知っている。人生には悲しみを通じてしか開かない扉がある。悲しむ者は、新しい生の幕開けに立ち会っているのかもしれない。耳をすます、小さな声で勇気と希望に語りかける、二十五編のエッセイ。

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初出メディア

文春オンライン

文春オンライン 2016年1月19日

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