書評

『近代世界システムIV―中道自由主義の勝利 1789-1914―』(名古屋大学出版会)

  • 2018/01/10
近代世界システムIV―中道自由主義の勝利 1789-1914― / I. ウォーラーステイン
近代世界システムIV―中道自由主義の勝利 1789-1914―
  • 著者:I. ウォーラーステイン
  • 翻訳:川北 稔
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(432ページ)
  • 発売日:2013-10-10
  • ISBN-10:4815807469
  • ISBN-13:978-4815807467
内容紹介:
「長い19世紀」に確立し、今日の世界をも決定づける中道自由主義のインパクトと、それに対抗する反システム運動の勃興を詳述、近代世界システムにおける自由主義国家の成立とその広範な影響を初めてとらえ、19世紀史を書き換える。著者のライフワークにして最高傑作、待望の新刊。

真骨頂の「自由貿易は保護主義」

「長い16世紀」を扱った1巻刊行が1974年、やっと待望の4巻が出た。本書ではフランス革命の衝撃を吸収する過程である「長い19世紀」(1789〜1914年)を扱い、「世界帝国」から「資本主義的世界経済」への移行プロセスを解き明かす。

仏革命以降、保守主義、自由主義、急進主義(社会主義)という三つのイデオロギーが生まれた。1830年の7月王政で自由主義が勝利する。ルイ=フィリップは「国王」ではなく「フランス人の王」を名乗ろうとした。

当初の「左翼」的スタンスから「中道」へと軸を移した自由主義者は、穀物条例を廃止し、1848年の欧州革命の試練を乗り切ったことで、英国では自由貿易帝国を形成し、仏国がそれを補完した。

「近代世界システム」論の真骨頂のテーゼの一つに、「自由貿易は、じっさい、もうひとつの保護主義」がある。「それは、その時点で経済効率に勝(まさ)っていた国のための保護主義」だからである。

そんなことは新古典派の始祖アルフレッド・マーシャルでさえ気がついていたのだが、21世紀の新自由主義者は、「レッセ・フェール=自由放任」という神話と「進歩」を信奉し続けている。

近代世界システムの根幹をなす資本主義的世界経済は中核・半周辺・周辺から成り立ち、「不等価交換」を前提に「世界的分業」を展開する。国内にも非正規社員という「周辺」を作り出す、21世紀のグローバリゼーションはそれを地でいっているのだ。

近代はあらゆることを細分化し、専門家が主役となった。しかしもはや市場の研究のための経済学、国家にかかわる政治学、市民社会を対象とした社会学など再結集しないと、「個人主義という羊の皮を被(かぶ)った、強力な国家のイデオロギー」に他ならぬ自由主義の本質はつかめない。

5巻、そして6巻を一刻も早く読みたい。
近代世界システムIV―中道自由主義の勝利 1789-1914― / I. ウォーラーステイン
近代世界システムIV―中道自由主義の勝利 1789-1914―
  • 著者:I. ウォーラーステイン
  • 翻訳:川北 稔
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(432ページ)
  • 発売日:2013-10-10
  • ISBN-10:4815807469
  • ISBN-13:978-4815807467
内容紹介:
「長い19世紀」に確立し、今日の世界をも決定づける中道自由主義のインパクトと、それに対抗する反システム運動の勃興を詳述、近代世界システムにおける自由主義国家の成立とその広範な影響を初めてとらえ、19世紀史を書き換える。著者のライフワークにして最高傑作、待望の新刊。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2013年12月22日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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