書評
『かいけつゾロリ イシシ・ノシシ大ピンチ! !』(ポプラ社)
ゾロリがゾロゾロ
最近は、自分で本を読む時間がだんだん増えてきた息子。一人前にページをめくっている姿を見ると、頼もしいわ、寂しいわ、手持ちぶさただわで、ついカメラを構えてパチリとやってしまう。ただ本を読んでいるというだけの写真が、何枚もあるのだが、なんだかどこかで見たことがあるような気がする。ある時、笑いながら母が言った。
「あなたの小さいころに、そっくり!」
そうだった。私のアルバムにも、本を読んでいる写真が何枚かあって、これがまあ、あきれるほど息子と似ている。試しに見せてみたら「あ、たくみんだ」と、さらりと言っていた。本人がそう思うのだから、間違いない。
かつては何とも思わなかった写真だが、もしかしたらこれを撮ったときの母もまた、今の自分のような気持ちだったのかもしれないなあと、ふと思う。
「ねえ、おかあさん」。図書館から借りてきた一冊を、熱心に読んでいた息子が、顔をあげた。
「どうじょうするなら、カレーをくれって、どういう意味?」
「え? ええー?」
それは、あれだろうか。テレビドラマ「家なき子」の有名なセリフ「同情するなら金をくれ」のパロディーか?
息子の手には、ちかごろハマっている「かいけつゾロリ」シリーズの一冊。これがもう十数冊めだ。古くからあるシリーズで、おりおりの流行などが採り入れられているので、今読むとわかりにくいものがたまにある。これも、当時は流行語にまでなった「同情するなら……」を、だじゃれのネタにしたものだろう。
それにしても、ゾロリの人気はすごい。図書館の本の汚れぐあいでも、一目瞭然(りょうぜん)だ。文字と挿絵だけでなく、時にはマンガ風に吹き出しにセリフが入っていたりして、とても読みやすい。もちろんそれだけなら、他にも類似したものがあるが、ゾロリのおもしろさは群を抜いているようだ。いくつか似たような本も借りてみたが、今や息子はゾロリ一辺倒である。
いたずらの天才ゾロリと、ドジでかわいい子分、イシシとノシシ。ハラハラさせるストーリーに加え、だじゃれやギャグが山盛りなのも、息子のポイントが高い要因のようだ。
お年玉として私が買ってやった『かいけつゾロリ イシシ・ノシシ大ピンチ!!』は、エコがテーマ。付録(初回限定)はエコバッグならぬ「ええ子バッグ」だし、温暖化で池の水が干上(ひあ)がるのは、「いけないねえ」などと、さっそく出てくる。
だじゃれというのは、ただのおふざけではなく、同音異義語を利用した言葉遊びだ。子どもが「ゾロリの本がゾロゾロあるね!」なんて言うと、ちょっと嬉しくなる。
シクラメン次々と咲く冬休みエコという語を子が口にする
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2009年2月25日
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