書評

『ヨーロッパは中世に誕生したのか?』(藤原書店)

  • 2019/12/08
ヨーロッパは中世に誕生したのか? / ジャック・ル=ゴフ
ヨーロッパは中世に誕生したのか?
  • 著者:ジャック・ル=ゴフ
  • 翻訳:菅沼 潤
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(512ページ)
  • 発売日:2014-11-22
  • ISBN-10:4865780017
  • ISBN-13:978-4865780017
内容紹介:
「ヨーロッパの誕生」を知ることなくして、「ヨーロッパ」を理解することはできない!現代われわれが考える「ヨーロッパ」は、いつ、いかにして生まれたのか?アナール派を代表する中世史の… もっと読む
「ヨーロッパの誕生」を知ることなくして、「ヨーロッパ」を理解することはできない!
現代われわれが考える「ヨーロッパ」は、いつ、いかにして生まれたのか?
アナール派を代表する中世史の泰斗が、四世紀から十五世紀に至る「中世」十世紀間に、古代ギリシア・ローマ、キリスト教、労働の三区分などの諸要素を血肉化しながら、自己認識として、そして地理的境界としての「ヨーロッパ」が生みだされるダイナミックな過程の全体像を明快に描く、ヨーロッパ成立史の決定版。
●英仏独西伊5か国共同企画

歴史の緩やかな連続

人間は、パウロの回心のように、画期的な出来事があって初めて次のステージへ進めるという思考に囚われ易い。「起業を目指したきっかけは何か」などの質問や「ヨーロッパで、西ローマ帝国が滅びて暗黒の中世が始まり、輝かしいルネッサンスが起こって近代が始まる」といった思考がその典型だろう。アナール派泰斗の著者は、こうした思考を否定して歴史を緩やかな連続線で捉える。即(すなわ)ち、現代のヨーロッパの社会や心性の萌芽が、4世紀から15世紀に至る中世の多様性の中に見出せるというのだ。

8世紀までに民族大移動の後、ヨーロッパがキリスト教化される。次いでシャルルマーニュの帝国(「流産したヨーロッパ」とは言い得て妙だ)、紀元1000年のオットーの帝国と続き、11〜12世紀の封建制ヨーロッパの時代がくる。マリア信仰、それと裏腹に迫害のヨーロッパ(異端、ユダヤ人など)や十字軍も誕生した。13世紀に都市と大学が成功するが一転して14世紀のペストによる死の舞踏、そして15世紀にかけて中世の秋あるいは新時代の春?(ルネッサンスを特筆しない著者らしい)がくる。最後はコロンブスによる新大陸への到達。「15世紀の中国はあらゆる分野でもっとも進んだ国である。しかし以後は自身のうちに閉じこもり、衰弱し、世界の支配をヨーロッパ人に明け渡すようになる」。読み終えて、中世の豊饒さが蘇る。

ただ、「ムハンマドなくしてシャルルマーニュなし」(ピレンヌ・テーゼ)や「オスマン朝に対峙した東欧諸国の強大化によりユーラシア街道に障壁が築かれてヨーロッパが成立」(佐藤彰一)などといった外部世界との関わりの分析が乏しいのは残念だ。本書は、共通文化領域創出を試みる欧州5か国の共同出版「ヨーロッパをつくる」歴史叢書(そうしょ)の1冊。このような試みが東アジアで実を結ぶのはいつのことか。その意味で『「日中歴史共同研究」報告書』(勉誠出版)刊行の意義は決して小さくない。菅沼潤訳。
ヨーロッパは中世に誕生したのか? / ジャック・ル=ゴフ
ヨーロッパは中世に誕生したのか?
  • 著者:ジャック・ル=ゴフ
  • 翻訳:菅沼 潤
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(512ページ)
  • 発売日:2014-11-22
  • ISBN-10:4865780017
  • ISBN-13:978-4865780017
内容紹介:
「ヨーロッパの誕生」を知ることなくして、「ヨーロッパ」を理解することはできない!現代われわれが考える「ヨーロッパ」は、いつ、いかにして生まれたのか?アナール派を代表する中世史の… もっと読む
「ヨーロッパの誕生」を知ることなくして、「ヨーロッパ」を理解することはできない!
現代われわれが考える「ヨーロッパ」は、いつ、いかにして生まれたのか?
アナール派を代表する中世史の泰斗が、四世紀から十五世紀に至る「中世」十世紀間に、古代ギリシア・ローマ、キリスト教、労働の三区分などの諸要素を血肉化しながら、自己認識として、そして地理的境界としての「ヨーロッパ」が生みだされるダイナミックな過程の全体像を明快に描く、ヨーロッパ成立史の決定版。
●英仏独西伊5か国共同企画

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 2015年2月1日

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