コラム

鹿島 茂「2023年 この3冊」毎日新聞|<1>山口昌子『パリ日記―特派員が見た現代史記録1990-2021 第5巻 オランド、マクロンの時代 2011.10-2021.5』(藤原書店)、<2>阿部卓也『杉浦康平と写植の時代』(慶應義塾大学出版会)、<3>ティモシー・ワインガード『蚊が歴史をつくった 世界史で暗躍する人類最大の敵』(青土社)

  • 2025/04/24

2023年「この3冊」

<1>山口昌子『パリ日記―特派員が見た現代史記録1990-2021 第5巻 オランド、マクロンの時代 2011.10-2021.5』(藤原書店)

<2>阿部卓也『杉浦康平と写植の時代』(慶應義塾大学出版会)

<3>ティモシー・ワインガード『蚊が歴史をつくった 世界史で暗躍する人類最大の敵』(青土社)

<1>は全五巻の『パリ日記』の最終巻。冷戦以後、産経新聞パリ支局長としてヨーロッパを取材してきた著者の備忘録代わりの日記が1―4巻を成す。最終巻は退任後にフリーランサーとして取材したものをテロ、移民、EUなどのテーマ別に編集した本。本書を参照せずにフランス現代史を語ることは不可能になった。

<2>はカタカナのレイアウトに苦労したデザイナー杉浦康平が日本独自に発達した写植という複製技法と出会うことによって起こった印刷革命をその終焉(しゅうえん)まで追跡した研究書。ストーリーテリングの巧みさが際立つ。

<3>世界史はある意味、戦争の歴史だが、その戦争の帰趨(きすう)を決定づけたのは耐性をもたない侵入者に襲いかかった蚊だったという結論が衝撃的。人類の未来も蚊との勝負にかかっている。

パリ日記―特派員が見た現代史記録1990-2021 第5巻 オランド、マクロンの時代 2011.10-2021.5 / 山口 昌子
パリ日記―特派員が見た現代史記録1990-2021 第5巻 オランド、マクロンの時代 2011.10-2021.5
  • 著者:山口 昌子
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(592ページ)
  • 発売日:2023-06-27
  • ISBN-10:4865783903
  • ISBN-13:978-4865783902
内容紹介:
「オランドの時代(2012年5月~2017年5月)」は今、振り返ると、「テロ」というどす黒い血に彩られていたような印象を受ける。その底流を流れていたのが、「移民問題」であり、「宗教の相違」… もっと読む
「オランドの時代(2012年5月~2017年5月)」は今、振り返ると、「テロ」というどす黒い血に彩られていたような印象を受ける。その底流を流れていたのが、「移民問題」であり、「宗教の相違」という一見、現代離れした問題だった。
「オランドの時代」はまた、内政面での大きな変革の予兆の時代でもあった。フランスの「第五共和制(1958年制定)」の後半を特色付けた、左右の二大政党が拮抗した時代の終焉である。
「マクロンの時代(2017年5月~)」の最大の「事件」はエマニュエル・マクロン自身だ。数年前までまったく無名だった39歳の若き政治家が、いきなり、国連安保理常任理事国であり、核保有国である“大国フランス”の大統領に就任した出来事を、「事件」と言わずに何と言おう。平時には、「欧州」の大国は経済基盤の堅固なドイツだった。しかし、暗雲が欧州大陸を覆う戦時となると、平時には見過ごされていた“大国フランス”の出番だ。
ウクライナのゼレンスキー大統領が何かとマクロンに電話して、頼りにするのは、フランスが国連安保理常任理事国であると同時に核保有国だからだ。イラク戦争をはじめ、数々の紛争を体験し、「拒否権」を持つ常任理事国の役割と国連決議の重要性を知るヨーロピアンなら、ゼレンスキーのこの態度を理解できるはずだ。
(「はじめに」より)

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杉浦康平と写植の時代: 光学技術と日本語のデザイン / 阿部 卓也
杉浦康平と写植の時代: 光学技術と日本語のデザイン
  • 著者:阿部 卓也
  • 出版社:慶應義塾大学出版会
  • 装丁:単行本(488ページ)
  • 発売日:2023-04-07
  • ISBN-10:4766428803
  • ISBN-13:978-4766428803
内容紹介:
杉浦康平が日本語のレイアウトやブックデザインに与えた決定的な影響を明らかに。

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蚊が歴史をつくった: 世界史で暗躍する人類最大の敵 / ティモシー・ワインガード
蚊が歴史をつくった: 世界史で暗躍する人類最大の敵
  • 著者:ティモシー・ワインガード
  • 翻訳:大津 祥子
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(544ページ)
  • 発売日:2023-05-26
  • ISBN-10:4791775481
  • ISBN-13:978-4791775484
内容紹介:
蚊の存在は、はるか昔より人類史に大きな影響を与えてきた。この耳障りで不快な虫が人類の歴史に与えたインパクトを明らかにする。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2023年12月30日

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