コラム
張 競「2023年 この3冊」毎日新聞|<1>八鍬友広『読み書きの日本史』(岩波新書)、<2>玉川裕子『「ピアノを弾く少女」の誕生 ジェンダーと近代日本の音楽文化史』(青土社)、<3>友田健太郎『自称詞<僕>の歴史』(河出新書)
2023年「この3冊」
<1>八鍬友広『読み書きの日本史』(岩波新書)
<2>玉川裕子『「ピアノを弾く少女」の誕生 ジェンダーと近代日本の音楽文化史』(青土社)
<3>友田健太郎『自称詞<僕>の歴史』(河出新書)
<1>は日本語表記法の移り変わりと読み書きの教育史をめぐって、仮名が生まれる前から近代にいたるまでの経緯を語ったものである。異なる学問領域を跨(またが)る難しいテーマだが、膨大な文献を読みこなした上、専門性の高い話題を一般向けにわかりやすく解き明かした。<2>はピアノの演奏という事象を通して、女子の音楽習得におけるジェンダー規範を明らかにした。明治時代にさかのぼり、小説、メディア、女子教育、百貨店の商業戦略との関連性を腑分(ふわ)けしながら、音楽の分野において女性が大活躍できた理由を突き止めた。
日本語の第一人称、第二人称ほど外国人学習者を発狂させるものはない。<3>はその筆頭の「僕」について、『古事記』から近代までの使用史を丁寧な資料調査にもとづいて再現した。