コラム

斎藤 環「2023年 この3冊」毎日新聞|<1>カール・エリック・フィッシャー『依存症と人類』(みすず書房)、<2>東畑開人『ふつうの相談』(金剛出版)、<3>蓮澤優『フーコーと精神医学』(青土社)

  • 2025/04/19

2023年「この3冊」

<1>カール・エリック・フィッシャー『依存症と人類』(みすず書房)

<2>東畑開人『ふつうの相談』(金剛出版)

<3>蓮澤優『フーコーと精神医学』(青土社)

<1>アルコール依存症当事者だった精神科医による、依存症史の決定版。依存症が病気と認定され「アルコホーリクス・アノニマス(AA)」の誕生に至る正の歴史と、米連邦麻薬局の初代長官が主導した厳罰主義の弊害という負の歴史が対比的に描かれる。

<2>著者によれば「専門知は世間知らずになりやすく、学派知は暴走しやすく、現場知は閉塞(へいそく)しやすい」。原理主義に抗してメタ視点から多様な臨床知を統合すること。そこに「ふつうの相談」が立ち上がる。

<3>大著『狂気の歴史』で反精神医学の旗手となったフーコーの晩年に、著者は特異な治療論を見出す。それは「自己の実践」という名の自己の解放であり、ただ一回の過程のもとで主体性を回復することだ。精神科医ならではの新鮮な視座が印象的な快著。

依存症と人類――われわれはアルコール・薬物と共存できるのか / カール・エリック・フィッシャー
依存症と人類――われわれはアルコール・薬物と共存できるのか
  • 著者:カール・エリック・フィッシャー
  • 翻訳:小田嶋 由美子,松本 俊彦(監訳)
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(456ページ)
  • 発売日:2023-04-12
  • ISBN-10:4622096021
  • ISBN-13:978-4622096023
内容紹介:
ある時代には酒や薬物に耽溺することは「堕落」と見なされ、ある時代には「下級階層の流行病」と見なされた。またある時代には、たとえ同じ薬物でも、特定のコミュニティで使用すれば「医療」… もっと読む
ある時代には酒や薬物に耽溺することは「堕落」と見なされ、ある時代には「下級階層の流行病」と見なされた。またある時代には、たとえ同じ薬物でも、特定のコミュニティで使用すれば「医療」だが、別のコミュニティに属する者が使用すれば「犯罪」と見なされた。
アルコール依存症から回復した精神科医が本書に描くのは、依存症の歴史であり、その概念の歴史である。自身や患者の体験、過去の有名無名の人々のエピソードに加え、医学や科学のみならず、文学、宗教、哲学にまで踏み込んだ豊饒な歴史叙述によって、依存性薬物と人類の宿命的な繋がりが浮かび上がってくる。
依存症は「病気」なのか? それとも、差別や疎外に苦しむ者に刻印されたスティグマなのか――? 圧倒的な筆力で依存症をめぐるさまざまな神話を解体し、挫折と失敗に彩られた人類の依存症対策史をも詳らかにする。

「本書は、米国のみならず、国際的な薬物政策に大きな影響を及ぼす一冊となりうる力を備えている。その意味で、依存症の治療・支援はもとより、政策の企画・立案、さらには啓発や報道にかかわる者すべてにとっての必読書であると断言したい」(松本俊彦「解題」より)


目次

イントロダクション
著者はしがき

第I部 名前を探して
第1章 出発点――「依存症」以前
第2章 エピデミック
第3章 意志の病い

第II部 不節制の時代
第4章 憑依
第5章 アメリカ初のオピオイド・エピデミック
第6章 ジャンキー

第III部 現代の依存症のルーツ
第7章 近代アルコホリズム運動
第8章 よい薬物、悪い薬物

第IV部 試される依存症
第9章 リハビリテーション
第10章 ゼロ・トレランス
第11章 依存症を理解する

結論 回復

謝辞
解題 (松本俊彦)
原註
図版クレジット一覧
索引

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ふつうの相談 / 東畑 開人
ふつうの相談
  • 著者:東畑 開人
  • 出版社:金剛出版
  • 装丁:単行本(200ページ)
  • 発売日:2023-08-16
  • ISBN-10:4772419837
  • ISBN-13:978-4772419833
内容紹介:
ケアする人たちすべてに贈る。友人論と心理療法論を串刺しにする、「つながり」をめぐる根源的思索!人が人を支えるとはどういうことか。心の回復はいかにして可能になるか。この問いに答える… もっと読む
ケアする人たちすべてに贈る。友人論と心理療法論を串刺しにする、「つながり」をめぐる根源的思索!人が人を支えるとはどういうことか。心の回復はいかにして可能になるか。この問いに答えるために、臨床心理学と医療人類学を駆使して、「ふつうの相談」を解き明かす。精神分析からソーシャルワークまで、病院から学校まで、介護施設から子育て支援窓口まで、そして職場での立ち話から友人への打ち明け話まで。つまり、専門家から素人まで、あらゆるところに生い茂る「ふつうの相談」とは一体何か。心のメカニズムを専門的に物語る学派知と、絶えずこれを相対化する世間知と現場知。これらの対話は、やがて球体の臨床学へとたどり着き、対人支援の一般理論を描き出す。補遺として「中断十カ条――若き心理士への手紙」を収録。

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フーコーと精神医学: 精神医学批判の哲学的射程 / 蓮澤 優
フーコーと精神医学: 精神医学批判の哲学的射程
  • 著者:蓮澤 優
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(424ページ)
  • 発売日:2023-09-26
  • ISBN-10:4791775708
  • ISBN-13:978-4791775705
内容紹介:
「狂気」の治療は本当に必要なのか。「正常な人間」は存在するのか
ひとを規格に押し込める治療ではなく、主体を自由にし、ただひとりの自分自身でありうる治療を目指して。その歴史から司法精神医学制度の現在地にまでアプローチする。臨床医の著者が戸惑いながら考え、精神医学と哲学の専門知を往還する唯一無二の書。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2023年12月30日

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