書評

『日露戦争の世界史』(藤原書店)

  • 2025/03/23
日露戦争の世界史 / 崔 文衡,朴菖煕
日露戦争の世界史
  • 著者:崔 文衡,朴菖煕
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(437ページ)
  • 発売日:2004-05-01
  • ISBN-10:4894343916
  • ISBN-13:978-4894343917
内容紹介:
「日露戦争は世界戦争だった」語られてこなかった欧米列強の東アジア政策。韓国歴史学界の第一人者が、100年前の国際関係から、西欧列強による地球規模の“東アジア利権争奪”の経緯を鮮やかに活… もっと読む
「日露戦争は世界戦争だった」語られてこなかった欧米列強の東アジア政策。韓国歴史学界の第一人者が、100年前の国際関係から、西欧列強による地球規模の“東アジア利権争奪”の経緯を鮮やかに活写し、アメリカ世界戦略の出発点を明らかにした野心作。

目次
第1章 列強の東アジア分割競争(列強の中国大陸分割競争;アメリカのマニラ湾侵攻と列強の反応 ほか)
第2章 ロシアの満州占領と列強の対応(“露清単独秘密協定”と日本の対応;ロシアの満州支配に対する列強の反応 ほか)
第3章 アメリカ・イギリスの対日支援と日露開戦への道(ロシアの撤兵条約不履行と“ニューコース”の確立;列強の対ロシア抗議とイギリス・アメリカの対日支援の限界 ほか)
第4章 日露戦争と国際関係(日露開戦とアメリカの対日政策;日露戦争の戦況変化とバルチック艦隊 ほか)
第5章 戦後の状況と日本の“韓国併合”(満州門戸閉鎖に対するアメリカ・イギリスの抗議と日本の対応;“第一次日露協約”と日本の“韓国併合”の企て ほか)

列強の思惑渦巻く戦いの実相

今から百年前に起きた日露戦争は、日本が列強のロシアに戦勝したということから、その後の政治や経済に大きな影響を与えた。

日清戦争の勝利、三国干渉を経ての日英同盟の締結によって、列強の一つとして国際的に認知された大日本帝国が、ロシアを相手に戦いを挑み勝利したことで、様々な面で日本人は大きな自信を抱くようになったが、やがてそれは過信となり、戦争に妄信を抱くようになった点でも大きな転換点となった。

それだけにその実態を知る必要は大いにあるのだが、これは日本の立場だけから探っていてもわからない。

本書は、韓国の歴史学の重鎮である著者が、広く史料を博捜して、国際関係史の視点から、日露戦争がいかに起き、どう帰結したのかを探ったものである。

三国干渉により、干渉した当事国がドイツは膠州湾を占領し、ロシアは満州に拠点を占めたのをはじめ、干渉に加わらなかったイギリスも威海衛を租借し、アメリカもフィリッピンを獲得するなど、機に乗じて欧米列強は競って東アジアの地に進出を図ってきた。

そうした状況にあって、ロシアと日本が韓国と満州の利権の保護と拡大を求め、ついに戦端が開かれたのが日露戦争であり、その戦後のポーツマス条約を経て、ついに日本が韓国を併合するにいたるまでの歴史を本書は描いている。

本書の特徴の第一は、列強の思惑や動きが極めて詳しく記されている点である。なかでも日本の対戦国であるロシアと、日本を後押ししたアメリカの動きとが詳細に描かれているのは特筆されよう。

国益を求める外交の動きと国内情勢との内的な関連が生き生きと描かれており、一転二転三転する国際情勢とはこういうものかと思わされた。

アメリカはフィリッピン問題を抱えて当初は日本を後押しはしたが、戦後、満州に利害問題が起きると、日本と対立し、今度は逆に日本がロシアと結ぶなど、次々と対応が変化してゆく。

国際関係史の視点の有効性がよくうかがえ、現在でも同じような動きがあることを知っておかねばならないだろう。

第二は、日露戦争が実は韓国の保護権を争う戦争であったことを特に主張しており、それもあって日本の韓国併合までを扱っているが、その主張が本質をよくいいあてている点である。

これまでは日本が満州の獲得を主目的としたことから帝国主義的と見なされ、韓国の保護を主張する論者の場合は、そうでないと主張することが多かった。しかし著者は韓国保護論そのものが本質であり、帝国主義的であったとする。

日本が韓国を併合するのに最後まで障害になったのはロシアの動きであったことを指摘するとともに、本の最後では「日本の韓国併合は列強がそれぞれ自国の利益のため日本の野望を黙認した帝国主義的侵略実態を見せているのである。そこに、合法性や正当性が存在し得ないのは言をまたない」と結んでいるのが印象的である。

冷静な分析を終始行なってきた著者が、こう語らざるをえなかった心情はよくわかる。そこからは勝者が敗者を踏みにじることの問題点が浮き彫りにされている。日露戦争が決して遠い過去のことではないことを改めて知らされた。

なお本書は韓国との同時出版であり、こうした出版は大いに歓迎されるのだが、出版を急いだせいもあろうか、訳文にはやや問題がある。編集者ももう少し留意すべきであろう。
日露戦争の世界史 / 崔 文衡,朴菖煕
日露戦争の世界史
  • 著者:崔 文衡,朴菖煕
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(437ページ)
  • 発売日:2004-05-01
  • ISBN-10:4894343916
  • ISBN-13:978-4894343917
内容紹介:
「日露戦争は世界戦争だった」語られてこなかった欧米列強の東アジア政策。韓国歴史学界の第一人者が、100年前の国際関係から、西欧列強による地球規模の“東アジア利権争奪”の経緯を鮮やかに活… もっと読む
「日露戦争は世界戦争だった」語られてこなかった欧米列強の東アジア政策。韓国歴史学界の第一人者が、100年前の国際関係から、西欧列強による地球規模の“東アジア利権争奪”の経緯を鮮やかに活写し、アメリカ世界戦略の出発点を明らかにした野心作。

目次
第1章 列強の東アジア分割競争(列強の中国大陸分割競争;アメリカのマニラ湾侵攻と列強の反応 ほか)
第2章 ロシアの満州占領と列強の対応(“露清単独秘密協定”と日本の対応;ロシアの満州支配に対する列強の反応 ほか)
第3章 アメリカ・イギリスの対日支援と日露開戦への道(ロシアの撤兵条約不履行と“ニューコース”の確立;列強の対ロシア抗議とイギリス・アメリカの対日支援の限界 ほか)
第4章 日露戦争と国際関係(日露開戦とアメリカの対日政策;日露戦争の戦況変化とバルチック艦隊 ほか)
第5章 戦後の状況と日本の“韓国併合”(満州門戸閉鎖に対するアメリカ・イギリスの抗議と日本の対応;“第一次日露協約”と日本の“韓国併合”の企て ほか)

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2004年9月5日

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