書評

『「線」の思考』(新潮社)

  • 2021/03/05
「線」の思考 / 原 武史
「線」の思考
  • 著者:原 武史
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2020-10-16
  • ISBN-10:4103328428
  • ISBN-13:978-4103328421
内容紹介:
鉄道という「線」を辿れば多様な日本の姿が見えてくる。古代から現代まで地域に埋もれた歴史の地下水脈を幻視するマジカル・ツアー!

乗って歩いて歴史を掘り起こす

ある地点と別の地点を結ぶ鉄道には、始まりの理由がある。その理由は、経年によって変化し、時に意味そのものが眠りこける。

鉄路にひっつくように開発された街が連なる中で「線」の特性が消失し、象徴的ないくつかの「点」が一つの路線を背負うようになる。今、改めて「『点』と『点』を結ぶことで『線』が成立する」との視点で鉄路の意義を問う一冊が、なぜそこに「線」が引かれたのか、根源を掘り起こす。

乗り、歩き、語り、記す。サブタイトルにもあるように、新宗教やカトリックの足跡、鉄道での移動を続けた近現代の皇室の姿を見つけ出す。「線」は、「時には数百年という時間を超え、幾条もの帯となって流れる水脈を探り当てる」のだ。

「常磐」には「ときわ」と「じょうばん」という二つの読み方がある。常陸と磐城を組み合わせたのが「じょうばん」だが、「ときわ」は古代にまで遡ることができた。沿線には多くの鉱山、炭鉱があり、火力発電所や原子力発電所が並び、首都圏にエネルギーを供給する役割を果たしてきた。平成の終焉と常磐線の復旧を「常に変わらない岩」として重ね合わせていく。

「房総三浦環状線」の章では、日蓮の歩みを鉄路に重ねた。旭川では、「線」の消えた街から、陸軍第七師団の痕跡を捜してみせる。車窓から思索を得て、その場での探索と、残された史料で編み上げていく。

本書の取材は「現上皇が退位して平成が終わり、現天皇が即位して令和が始まる前後」に行われた。旅の始まりと終わりが「カトリックと皇室の関係」を探る構成となったことを「円環をなす」かのようとしたが、「点」を「線」にし、「面」や「円」を獲得する動的なプロセスにうなる。

同行した編集者とのやりとりや、立ち食いそば・うどん店の様子を丁寧に盛り込むのも著者特有で楽しい。車窓から立ち上る歴史の断片に揺られ、いつの間にか連結されるのが心地よい。
「線」の思考 / 原 武史
「線」の思考
  • 著者:原 武史
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2020-10-16
  • ISBN-10:4103328428
  • ISBN-13:978-4103328421
内容紹介:
鉄道という「線」を辿れば多様な日本の姿が見えてくる。古代から現代まで地域に埋もれた歴史の地下水脈を幻視するマジカル・ツアー!

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2020年11月21日

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